けんきゅうの現場から
2012年3月号

経済学者による廃棄物管理の研究-その実態-

横尾 英史

廃棄物研究と経済学?

経済学と聞くとどのようなことをイメージするでしょうか?価格、金融、税金、などの言葉を思い浮かべるのではないでしょうか。確かに、これらは経済学における主要な研究テーマです。他方で、経済学を広くとらえると、人間の行動を研究する学問と言えます。そして、廃棄物問題も人間の行動に起因するという理由から、経済学を用いて分析することが有用であると言えます。ある政策を実施することによって人々の行動を変化させることができれば、廃棄物発生量やリサイクルの量を社会全体にとってより望ましい水準へと導くことができるかもしれません。

私が専門としている廃棄物管理・リサイクル政策の経済学研究(大学生向けのテキストとして、文献1)は環境経済学という分野に位置づけられます。私は高校一年生の時に『環境経済学への招待』(植田和弘著、文献2)という本を読んで、この道に進むことを決めました。その後、大学・大学院にて、上記の本の著者のもとで環境経済学を学び、経済学の博士号を取得して、この資源循環・廃棄物研究センター(循環センター)に研究員として着任したのです。

環境経済学の主な目的として、経済学の手法を用いて環境政策を立案・評価することが挙げられます。従って、廃棄物管理やリサイクル政策の立案、さらには実施された政策の評価を経済学的に行うことが私の研究内容となります。

研究生活の様子

私の研究生活の一端を紹介します。最も大きな仕事は、研究をして、その成果を論文にまとめ、学術雑誌から公表することです。これは循環センターの他のメンバーと変わりがありません。しかし、他のメンバーのように実験室で試料を計測したり、屋外の実験施設で作業をするようなことはまずありません。その代わりに、地方自治体などに協力してもらって統計データを入手します。また、アンケートを作成して調査を行うこともあります。このようにして得られたデータを解析します。加えて、文献を読んで国内外の廃棄物管理の現状を調べたり、他の研究者による過去の研究成果を参考にします。

このような研究スタイルですと、ほとんどの時間を机に座って、パソコンに向かって作業することになります。しかし、時には実際にリサイクルしている現場に行くこともあります。今年はフィリピンに行き、現地で使用済みのパソコンなどから金属をリサイクルしている現場の調査に行きました(写真1)。自分が研究対象としている現場を生で見ることにより、新たな問題意識が芽生え、次の研究アイデアにつながります。

また、これは研究者みながすることですが、国内外で研究成果を報告します。2011年には、アメリカ、ベトナム、イタリアの三カ国で学会に参加しました。(写真2)。このような機会に、廃棄物管理を研究する他国の経済学者と意見交換をすることは非常に有意義です。私はあるアメリカの環境経済学者と会った際に、その人に向けて研究アイデアを練り、共同研究を願い出ました。そのアイデアは国際資源循環を先進国の政策だけで適切に管理する方法についてのものでした。幸いにして、その人の興味をひくことに成功し、それから一緒に研究することになりました。国境を越えた共同研究の始まりです。簡単には会うことができませんので、普段はメールでやり取りし、加えてインターネット電話サービスを使って議論しながら研究を進めます。時差があるので不都合なこともありますが、刺激も多く、視野が広がります。この共同研究から、すでに一本の論文を発表することができました(文献3)。

このようにして、研究室の内外で、あるいは海外の人とインターネットを通じて繋がりながら、より面白い研究論文を書けるように日々努めています。

写真1 リサイクルの現場@フィリピン 写真1 リサイクルの現場@フィリピン
写真2 アメリカ経済学会の様子 写真2 アメリカ経済学会の様子

分野の垣根を越えた廃棄物研究へ

循環センターで同僚となって知り合った工学を専門とするメンバーとも一緒に研究を行っています。大学院を修了して循環センターで働くまでは、経済学者との交流しかほとんどありませんでした。それが、このセンターに来てからは工学の研究者のみなさんと一緒にプロジェクトを進めています。

当初はお互いの専門用語が通じなかったり、研究の進め方に違いがあったりと苦労することもありました。しかし、そういったものは時間と共に解消されます。また、相手の専門分野に興味を持ち勉強していくことで理解しあえるようになります。このような異分野の人との共同研究の先には、時として思いもよらない展開があります。私はこのような学際的研究を通じて、廃棄物研究の発展に貢献し、その成果を現実の廃棄物管理・リサイクル政策に活かしていきたいのです。

廃棄物問題は理工学にとっての課題でもあり、同時に社会科学の課題でもあります。それゆえ、理系文系の境界にとらわれずに、それぞれの専門を持った研究者が協力して研究していくことに意義があります。その際には、分野の垣根を越えたコミュニケーションが必要となります。これから廃棄物研究を志す方は、自分の専門性を高めつつ、好奇心のおもむくままに幅広い分野の勉強をして欲しいと思います。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. リチャード・C. ポーター(著)、石川雅紀・竹内憲司(訳): 入門廃棄物の経済学、東洋経済新報社、2005年。
  2. 植田和弘: 環境経済学への招待、丸善、1998年。
  3. Kinnaman, T. and H. Yokoo: The Environmental Consequences of Global Reuse. American Economic Review, 101 (3), 71-76, 2011.
<関連する調査・研究>
  1. 研究プロジェクト1
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