2010年9月21日号
廃棄物最終処分場からの汚水の漏れを防ぐ技術石森洋行
廃棄物の減量化やリサイクルが積極的に推進されていますが、廃棄物をゼロにすることは現実的には不可能で、どうしても有効利用ができないものは廃棄物最終処分場に埋立処分せざるを得ません。一方、廃棄物最終処分場の受入容量には限りがあり、将来にわたり廃棄物の埋立処分を安定的に維持するためには、新規の処分場建設が必要になります。しかし、廃棄物最終処分場は汚染源になり得るという懸念から、住民の反対等もあってその建設は大変難しくなっています。そのため、廃棄物処分場が汚染源とならないこと、特に汚水の漏れを防ぐ技術を説明して住民の理解を得る必要があります。 今回は、廃棄物最終処分場の最深部の遮水構造に着目し、それが処分場内からの汚水の漏れを防ぐのにどれだけの効果があるのかを考えてみましょう。 最終処分場最深部の遮水構造廃棄物最終処分場の側面と底面は水を通しにくい材料でつくられており、ちょうどお椀のような形をしています。このお椀の部分を遮水工と呼びます。雨などが廃棄物と接触して汚水が発生したとしても、処分場内部から外部に汚水が漏れることを防げるようにする必要があるため、水を通しにくい材料で処分場を囲んでいるのです。 水を通しやすい、通しにくいには大小があります。遮水工にはどの程度の通しにくさが求められるのでしょう?まず、水の通しやすさ、通しにくさの表わし方を紹介します。図1のように材料を通過する水の速度を考えたとき、その速度は、水面差に比例し、材料の厚さに反比例します。すなわち、 水の流速 = 比例定数x(水面差/材料の厚さ) (1)
このときの比例定数を透水係数と呼び、その値が大きいほど水を通しやすい材料であり、小さいほど水を通しにくい材料であることを示します。代表的な材料の透水係数を表1に示しました。 さて遮水工の目的は、廃棄物最終処分場内にある汚水の漏れを防止することなので、当然ながら透水係数の小さな材料が、遮水工に用いられます。私たちの身近にあるコンクリートは、ひび割れが生じなければ、非常に小さい透水係数をもち、優れた遮水材料なのですが、これは廃棄物最終処分場の遮水工に用いられることはほとんどありません。ひび割れのある個所から、水が漏れるからです。遮水工には、透水係数が小さく、ひび割れの生じにくい柔らかい材料として、粘土や合成樹脂製の遮水シートが用いられます。 わが国の遮水工は、その厚さと透水係数に着目して、構造が定められています。図2は、遮水工の構造の一例です。厚さ50 cm、透水係数10-6 cm/sの粘土層の上に、遮水シート(0.15cm厚)が設置されています。廃棄物最終処分場内に水位100 cmの汚水が溜まっていたとすると、汚水がこの遮水工を通過するのに要する時間は、約120年となります。 遮水工の安全性評価に必要な研究遮水工を通過するのに必要な時間は、遮水工の安全性を表わす尺度の一つと考えることができます。この時間が長いほど、廃棄物最終処分場内の汚水が外に漏れにくく、安全性は高いといえます。しかし、上記の例で求めた120年は、本当に安全なのでしょうか? 廃棄物から汚水が発生するのは、廃棄物を埋め立てた後の、ある限られた期間においてです。この期間を廃棄物の安定化期間と呼び、安定化期間を過ぎると廃棄物から汚水は発生しにくくなります。したがって、安定化期間内に発生する汚水の漏れを防ぐことが重要であり、汚水の遮水工を通過する時間が、安定化期間を上回れば安全と考えることができます。すなわち、 廃棄物の安定化期間 < 汚水の遮水工を通過する時間(2)
を満たす必要があります。 廃棄物の安定化期間は、まだ十分明らかにされていませんが、数十年から数百年と言われています。国立環境研究所では、2008年6月23日号「廃棄物埋立地の透水性と安定化」で紹介したように、埋め立て方法を工夫して廃棄物を早期に安定化させるための研究をしています。廃棄物の早期安定化は(2)式をより満たしやすくなるので、こうした研究は、最終処分場の安全性の向上につながっていると言えます。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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