循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2010年4月19日号

有害な廃棄物の最終処分問題−"ブラウン管鉛ガラス"を糸口に−

肴倉宏史

 環環2009年7月21日号に「ブラウン管テレビのリサイクル問題」を書いてから1年近くが経ち、この問題がいよいよ差し迫った課題となっています。ブラウン管ガラスには有害金属である鉛が大量に使用されているため、これまで行っていたブラウン管への再生ができなくなりつつある現在、その処理・リサイクルが非常に困難な状況となっているのです。そこで今回は、"ブラウン管鉛ガラス"を糸口に、有害な物質を含む廃棄物の最終処分について考えてみたいと思います。

 まず、どのくらいの量のブラウン管鉛ガラスがこれから排出されようとしているのか調べてみました。(財)家電製品協会によれば、2010年から2011年にかけて、ブラウン管テレビは年間1000万台前後が廃棄され、その重量は30万トン前後と推計されています。ブラウン管ガラス自体はテレビ全体重量の約60%を占めますが、このうちのファンネル(ブラウン管の背面にある漏斗状のガラス)、ネック(電子銃が装着される管状の部分)、フリット(表面パネルとファンネルを接続している部分)と呼ばれる各部位が、鉛を高濃度で含んでおり、テレビ全体重量で見ると約20%に相当します。したがって、年間約6万トンのブラウン管鉛ガラスが排出されることになります。将来的には、累計で24万トン程度が排出されると予測されています。

 産業廃棄物の最終処分量が年間約2000万トンであることと比較すると、ブラウン管鉛ガラスの排出量は決して大きい数字ではないようです。それでは、ブラウン管ガラスを廃棄物埋立地(最終処分場)に処分すれば、全ての問題は解決するのでしょうか? 答えはそう簡単ではありません。量だけでなく、質の観点からも考えてみる必要があるからです。

環環ナビゲーター:たけ

 有害物質を含む廃棄物を最終処分すると、埋立地に降った雨が廃棄物と接触して、有害物質が溶け出すのではないかと心配されるかも知れません。そこで次に、埋立地の構造を見てみましょう。産業廃棄物の埋立地には「遮断型」「管理型」「安定型」の3種類がありますが、ブラウン管鉛ガラスが最終処分される場合の行き先は「管理型」の埋立地です。管理型埋立地は2007年6月18日号「ごみ研究の歴史(5)」で紹介されている一般廃棄物埋立地と同じもので、埋立地の底には粘土層やしゃ水シートを二重に敷いて、浸出水を外部に漏らさない構造になっています。埋立地に降った雨水は廃棄物層を浸透して、底部の集水管に集められ、浸出水処理施設で排水基準を満たすように処理されてから放流されます。

 では、このようにしっかりとした管理型埋立地なら、どんな廃棄物を入れても良いのでしょうか。その答えは「いいえ」ですが、これには二つの理由があります。

 一つ目は、「管理型埋立地は半永久的に廃棄物を周辺環境から遮断して保管することを前提としたものではないことから、特に有害な廃棄物は最終処分してはならないことになっている」というものです。なお、産業廃棄物のうち特定の有害物質を含むものや、特別管理廃棄物に指定されているものは、廃棄物の溶出試験(2007年4月16日号「溶出試験」参照)を行って、埋立判定基準に合格しなければ管理型埋立地に入れてはならないことになっています。

 二つ目は、「溶出試験に合格しても、そして浸出水に有害物質が溶出しなくても、埋立地の中には有害物質は存在し続けるので、有害物質を含んだ廃棄物の最終処分は避けるべきである」というものです。確かに、浸出水がきれいになって、その処理が必要なくなっても、中の廃棄物には有害物質が安定な状態で残る可能性はあります。そのため、その土地がかつて埋立地だったことがわからなくなって掘り返すようなことが無いように、将来にわたってなんらかの管理をしつづける必要があるでしょう(2007年6月4日号「埋立地の跡地利用」参照)。

 だから廃棄物埋立地には有害物質を入れないべきだ、さらには、廃棄物埋立地は作らないべきだ、という答えは、たいへん理想的かも知れませんが、その実現には、とても多くのお金やエネルギーを必要とするということも忘れてはいけません。

 ブラウン管鉛ガラスの問題は、今まさにこのような岐路にあると言えます。まず、ブラウン管鉛ガラスについて溶出試験を行うと、埋立判定基準を満たすことは難しいことがわかっています。そのため、最終処分するためには鉛の溶出を抑制する処理を行う必要があると考えています(さらに研究では、鉛溶出の要因や鉛の長期的な挙動を調べています)。一方、ブラウン管ガラスの鉛を埋立地に入れないために、事前に、ガラスから鉛を分離する処理も考えられます。しかし、ガラスを加熱して再溶融し鉛を揮発分離したり、ガラスを酸などに浸して鉛を抽出したりするには、加熱や廃液の処理などに、多くのお金やエネルギーが必要になります。そして鉛を完全に分離できる処理はなかなかないため、鉛を分離した後の残渣は、何らかの管理が必要になることも考えておく必要があります。

 仮に埋立処分するとしても、全国の埋立地に分散して処分すべきか、数カ所に集約すべきか、といった点も考える必要があるでしょう。また、法制度上は多くの課題があるかも知れませんが、廃棄物埋立地を一時保管場所として、鉛製錬の原料にしていく方法も探るべきかも知れません。

 ブラウン管鉛ガラスを例に、有害な廃棄物の最終処分に対しては、量、質、時間、場所等々の実に様々な観点を踏まえながら検討を進めていく必要があることを述べました。そしてこのような検討を行う際の材料として、タイミング良く、客観的で信頼度の高い成果を提示することが、環境や廃棄物をテーマとする研究者の大切な役割の一つであると考えています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 肴倉宏史ら:ブラウン管ガラスからのPb溶出量に対する微細粒子の影響、第20回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集、pp.553-554、2009
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