循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 社会のうごき
2009年7月21日号

ブラウン管テレビのリサイクル問題

肴倉宏史

 地上波によるテレビ放送の完全デジタル化(いわゆる地デジ化)が2011年7月24日に行われます。このため、アナログ放送を受信中のテレビ画面の右上隅には「アナログ」という文字が表示され、地デジ化への対応を否応なく意識させられるようになりました。

 対応方法としては、デジタル放送受信機を購入する、もしくは、デジタル放送を受信できるテレビに買い替える、の二つが主に考えられます。わが家でも、アナログ放送用のブラウン管テレビがだいぶん古くなったので、(エコポイントにも背中を押されて、)つい先日、デジタル放送用の液晶テレビに買い替えました。

 これで、テレビ画面の「アナログ」の文字は消えました。地デジ化の準備完了です。役割を終えたわが家のブラウン管テレビは、家電リサイクル法(正確には、「特定家庭用機器再商品化法」)に基づき、販売店に引き取られていきました。引き取られたテレビは家電リサイクル工場に集められ、部品ごとに分解されて、大部分がリサイクルされているのは、ご存じかと思います。

 家電リサイクル法では、それぞれの品目に対してリサイクル率の目標値(正確には、「再商品化等基準」)が決められていて、ブラウン管テレビは55%(重量割合)となっています。これに対して、実績値を見ると、例えば2007年度は86%で、目標値を大きく上回っています。最近、洗濯機、冷蔵庫、エアコンのリサイクル率については、その目標値をいずれも70%以上へ引き上げることが決まりましたが、ブラウン管テレビだけは55%に据え置かれました。なぜなのか、おわかりでしょうか?

 それは、従来の方法では、ブラウン管テレビのリサイクルが出来なくなりつつあるからです。ブラウン管テレビのリサイクル率を考える際に最も重要なのは、全体の重さの約60%を占める「ブラウン管ガラス」です。これまでは、新たに製造されるブラウン管ガラスの原料(「ガラスカレット」)としてリサイクルされていました。しかし、日本のみならず、世界中でブラウン管テレビの需要が急激に減少しているため、リサイクル原料としての需要も非常に厳しくなりつつあるのです。

 地デジ化を間近に控えて、これから急激に大量に発生すると予想されるブラウン管ガラスの新たなリサイクル方法、あるいは、処理処分方法を考えなければなりません。電子情報技術産業協会によれば、ブラウン管テレビは毎年1000万台程度排出されており、2011年前後には全体で1400万台が上積みされて、一気に排出されるおそれがあるそうです(http://www.env.go.jp/council/03haiki/y0311-07.html)。

 ブラウン管ガラスの「ファンネル」や「ネック」という部分には、内部の電子銃から放出される有害なX線を吸収できるように、鉛が24〜32%も含まれています。そのため、そのまま他のガラス用途へ使うことができません。また、ガラスからの鉛の分離には非常に大きいエネルギーが必要となります。さらに、鉛自体が有害なため、ガラスを単純に砕いて土木資材として使うことも難しいのです。

 新たなリサイクル技術の開発はもちろん大切ですが、残された時間は長くはありません。現実的な対応策を考える必要があります。例えば、埋立処分は一つの選択肢でしょう。埋立地にストックし、金属製錬原料に回していくことも考えられます。いずれも技術的には可能でも、制度面で解決すべき点は少なくありません。しかし、差し迫った課題として、皆さんで協力しあいながら対処していかなければなりません。

環環ナビゲーター:たけ

 地デジ化には、解像度の向上などのメリットがある一方、まだ使えるはずのアナログ方式のテレビの寿命を短くさせているという側面があります。そのうえ、テレビの画像表示方式がブラウン管から液晶やプラズマへ移行したため、ブラウン管ガラスの用途が無くなり、リサイクルの仕組みに大きな課題を突き付けています。ある製品の需要が大きく変化すると、既存のリサイクルシステムの変更が否応なく迫られること、とりわけ、有害物質を含む製品の取扱が困難になることを、この問題から十分に学びとる必要があると考えています。

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