2009年2月9日号
各国のリサイクル政策と使用済み製品の越境移動村上(鈴木)理映
最近、製品が使用済みとなった後までの責任を、製造業者や輸入業者に負わせる、「拡大生産者責任:EPR」(2007年10月15日「生産者の責任」参照)の考え方に基づいたリサイクル法制度が各国で導入されています。この考え方は、製品の生産・使用段階だけでなく、廃棄・リサイクル段階にまで生産者の責任を拡大するという考え方ですが、これまでに各国で導入された制度では、必ずしも生産者のみに全ての責任を押し付けるのではなく、小売業者や消費者、地方自治体など、関係者各々にも使用済み製品の管理について役割分担することを求めています。この考え方が生まれたEU諸国ではもちろん、アジア地域でも日本、韓国、台湾でEPRの概念を取り入れたリサイクル制度が導入されて、既に10年が経過しています。対象品目や、関係者の責任の範囲は少しずつ異なっていますが、いずれの国でも、関係者で役割分担して、きちんと回収・リサイクルが行われているように見えます。ではなぜ、先進国からの使用済み製品が、途上国に合法・違法に輸出されるのでしょうか?(2007年2月19日「見えないフローとリサイクル・海外輸出」参照) それは、リサイクル法制度が、使用済み製品が「誰もいらないモノ」であることを前提として定められているので、「ごみとして捨てる時に誰に渡すべきか」を決めることはできますが、誰かがそれを欲しいというときにはリサイクル法制度の対象にはならないからです。そのため、「消費者が誰かにタダでまたは安く譲ったモノ」のフローは把握しにくく、これが「見えないフロー」になっています。つまり法律があっても、一度使用済みとなったモノを欲しがっている「誰か」がいる限り、「見えないフロー」は存在するのです。 実際、EPRの概念を取り入れても、生産者の責任下で回収・リサイクルできているのは、現状では、多くて排出されたうちの半分程度です。残りがどこに行き、どのように再使用もしくはリサイクルされるのか把握できないならば、「出る国(主に先進国)」の生産者には、使用時もリサイクル時も環境負荷が低い製品をつくることが期待されるでしょう。そして使用済みのモノが「入る国(主に途上国)」では、自国にとっての問題や課題、自国の製造事業者や輸入業者、リサイクル業者などの産業構造などを踏まえた上で、先進国の経験(成功も失敗も)を活かした制度を目指すのがよいでしょう。 各国がEPRの概念を取り入れて、しっかりした(と思っている)制度を構築しても、合法・違法を含めて「使用済み製品の越境移動」は起こるのです。違法の越境移動を取り締まるためには、国境での警備強化、税関での厳重チェック、輸出入業者への規制、などの手立てしかありません。しかし、「有害とされる廃棄物」が、出す国と入る国で違う場合、出す国では輸出が合法な廃棄物であっても、入る国では、違法な場合もあります。また、入る国で輸入を禁じていない合法な場合でも、入ってきた廃棄物に含まれる汚染物質を適切に処理する能力がなければ、汚染が引き起こされる可能性があります。このような問題に対処するためには、各国の法制度と併せて、国際的な枠組みが必要となります。 そこで、特に処理能力が不十分な途上国に、資源回収の名目で廃棄物が集中し、人体や環境を汚染することを防ぐために、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」が1989年に採択され、1992年に発効しました。この条約では、「有害な廃棄物」を輸出する時には事前に相手国に通告して同意を得ること、非締約国との「有害な廃棄物」の輸出入禁止、違法な取引や処理が見つかった場合は輸出国が引き取ることなどが定められました。 批准国は、バーゼル条約に準じた国内法を各々制定することになっています。日本では「日本版バーゼル法」の下で、「誰かがほしがっている有害廃棄物(有害な有価物)」、「誰もいらない有害廃棄物(有害の無価物)」、「有害ではないが誰もいらない廃棄物(非有害の無価物)」が、輸出入規制の対象となっており、使用済み電気電子機器は、「有害の無価物」にあたります。従ってもしも輸出するときには、相手国と自国の両方の許可が必要です。ただし輸出先で中古品として利用されることが明示されていれば、それは「廃棄物」ではないため、そもそもバーゼル条約の対象ではありません。そこで、中古品と偽ったり、「誰かがほしがっており有害でない廃棄物(非有害の有価物)」に混ぜるなどの手口で、バーゼル条約の対象とはならないようにして輸出される悪質なケースも摘発されています。 また、使用済み電気電子製品については、国連大学などの国際機関、世界的な大手電気電子機器メーカーなどの参加により、世界的に問題を解決するためのイニシアチブ「Solving the E-Waste Problem; StEP」が2007年にスタートしました。ただしこのイニシアチブが、どの程度環境汚染問題を改善しながら資源の有効利用を進めていくことに役立つかは未知数であり、課題は多く残されています。 私たちはこれまで、各国のリサイクル制度とその施行状況を調査し、現状把握に努めてきました。今後は、既に制度を導入してきた国の経験から得られる示唆をまとめるとともに、各国のリサイクル制度が越境移動に及ぼす影響について考察し、よりよい国際資源循環(2007年2月5日号「コクサイシゲンジュンカン?」参照)が行われる仕組みを考えていきます。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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