循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年9月8日号

モノの循環における『動脈静脈連携』

稲葉陸太

血液とモノの循環・動脈・静脈

 「循環型社会」とは、モノが一方向に流れて無駄使いされるのではなく、できるだけ環のようにめぐって効率よく使われるような社会です。 循環型社会の担い手には、消費者と生産者がいます。消費者は環境負荷が少ないものやリサイクルがしやすいものを選択することで貢献することができます。カーボンフットプリントのようなエコラベルによる環境負荷の見える化は、その支援策の一つとなるでしょう。 一方、生産者は技術を改善して使用する原料を少なくしたり、発生する廃棄物や環境負荷を減らしたりします。この記事では、生産者の取り組みである"動脈静脈連携"を紹介します。

ゆうぞう博士

 社会におけるモノの流れも、生き物の血液の流れになぞらえて、「動脈」「静脈」と呼ばれることがあります。資源が採掘され、原料・製品が生産され、お店まで流通し、私たちの手に製品が届くまでが「動脈」です。 一方、私たちがモノを消費した後にごみとして分別・排出し、これを市町村や事業者が収集・運搬し、再使用(リユース)もしくは再生利用(リサイクル)して、再び動脈に戻るような流れが「静脈」です。エネルギー回収を含めても良いでしょう。

 血液の流れは、主に心臓の圧力によって生み出されます。動脈の血液は心臓の圧力で押し出されて勢いよく流れます。一方、静脈の血液は圧力が低いので逆流を防ぐための弁が備わっていたりします。

 モノの流れは、主に消費の欲望によって生み出されます。動脈のモノは消費の欲望に引っ張られて勢いよく流れます。一方、静脈のモノ(循環資源)は消費活動によって発生しますが、品質や価格の面でこれに対する消費欲はそれほど強くないのが現状です。 品質や価格面で引っ張る力が無くなると血流=物流が止まったりする恐れがあります。また、血管=流通ルートがしっかりしていないと外に漏れ出すこともあります。これらの事態はごみの不法投棄をもたらす危険性もはらんでいます。

モノの循環における「動脈静脈連携」

 それでは、どうしたらモノがうまく循環するのでしょうか。どうしたら静脈のモノがうまく流れるのでしょうか。上述のように、静脈工程にはごみの再使用、再生利用、およびエネルギー回収が含まれます。 静脈工程はモノの有効利用という意味で期待されますが、現時点では、エネルギー消費、環境負荷排出およびコストの面で課題が多いのも事実です。 その理由としては、例えば、様々なモノが混在した廃棄物を扱うため動脈工程に比べて効率が低いこと、安全性を確保するために排ガス・排水処理等の設備が動脈工程より余計に必要であること等があります。

 一方、動脈工程は静脈工程に比べて歴史があり、長い年月をかけて進歩し続けてきました。そのため、それぞれの工程が生き物の内臓のように結び付いたシステムもあります。石油化学工業や製鉄・製鋼業においてよく見られる光景です。 そこでは、資源やエネルギーを徹底利用したり、不要となった残さ・排水・排ガスの処理を工程同士で共有したりするなど、高効率な連携によって資源・エネルギーやコストの削減を実現しているのです。

 静脈工程にとって、このような連携による効率化を見習わない手はありません。静脈工程と動脈工程が何らかの形で結び付き、両工程を合わせたシステム全体としての高効率化を図ってはどうでしょうか。 私たちは、これを「動脈静脈連携」と呼ぶことにしています。具体的には、静脈工程と動脈工程がモノやエネルギーを互いに利用しあったり、不要となった残さ・排水・排ガスを共同で処理したりして、資源・エネルギー消費やコストの削減を目指すものです。 資源・エネルギーの削減は、それらの供給と利用に伴うCO2排出量も削減することになります。

動脈静脈連携の分類

 動脈静脈連携では、「動脈の施設に対する静脈の施設の位置」「資源・エネルギーの連携の有無」「資源・エネルギーフローの方向」「処理の連携の有無」等が重要です。 これらに留意して、エネルギー回収を例として、動脈静脈連携の形態を分類すると図のようになります。左側が静脈の施設(例えば、ごみ発電施設)、右側が動脈の施設(例えば、通常の発電施設)を表しており、いずれの施設にも資源をエネルギーに変換する工程と、残さ・排水の処理工程があります。 緑色の矢印が連携の様子を表しています。

図 動脈静脈連携の分類
1) 直接連携:
静脈と動脈のパイプラインや送電線等の接続によってエネルギーを直接供給する形態です。
1-1) 近接連携:
静脈と動脈の施設が隣り合っている場合です。
1-2) 遠隔連携:
静脈と動脈の施設が離れている場合です。
2) 間接連携:
施設外の供給系統(電力やガスなど)と接続して静脈施設から動脈施設に(あるいは動脈施設から静脈施設へ)エネルギーを供給する形態で、間接的な動脈静脈連携が実現されます。
3) 処理連携:
残さや排水の処理を共同で行う形態です。残さは車両で、排水は管で送られます。

 これまで述べたように、一口に動脈静脈連携と言っても、色々なタイプが考えられます。元々の目的である「システムの効率化による資源・エネルギーやコストの削減」の達成は、対象となる静脈工程と動脈工程に合った連携のタイプが選択されるかどうかにかかっています。 私たちは、静脈工程と動脈工程に関する技術データを収集・整理したり、連携が成功している事例を調査したり、連携の定式化を検討したりしながら、「連携による効率化が達成される条件」を探る研究を行っています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 稲葉陸太ほか:廃棄物系バイオマス循環利用における動脈静脈連携の分類と効果、第19回廃棄物学会研究発表会講演論文集、2008(掲載予定)
関連研究 中核研究3
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