循環・廃棄物の豆知識
2023年5月号

フッ素化合物POPsを含む廃棄物の適正管理のための取り組み

松神 秀徳

フッ素化合物は有用な物質であり、私達の生活をより良くするために活用されてきました。例えば、かつては汚れや焦げ防止のためにフッ素樹脂コーティングの一部に用いられり、石油タンクや流出油などの大きな火災時の備えとして泡消火剤の一部に用いられたりしてきました。ところが、時代が進むにつれて安全性に対する詳細な評価や見直し等が行われるなかで、一部のフッ素化合物の環境汚染への恐れから使用を控える動きがあります。

特に近年、ペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)、ペルフルオロオクタン酸(PFOA)、ペルフルオロヘキサンスルホン酸(PFHxS)などの有機フッ素化合物による環境汚染に世界的な関心が集まっています。こうした世界の潮流に応えるように、PFOS、PFOA、PFHxSなどの有機フッ素化合物に対する環境規制もまた世界的に強化されています。ポリ塩化ビフェニル(PCB)などの残留性有機汚染物質(POPs)について、製造および使用の廃絶・制限、排出の削減、廃棄物等の適正処理等を規定するための国際条約として「残留性有機汚染物質(POPs)に関するストックホルム条約」1があります。このストックホルム条約では、2009年5月にPFOSおよびその塩が附属書B(制限)に追加され、その10年後の2019年4月にPFOAとその塩およびPFOA関連物質が、2022年6月にPFHxSとその塩およびPFHxS関連物質が附属書A(廃絶)に追加されています(表)。

表 ストックホルム条約で廃絶対象となったPFOAとその塩およびPFOA関連物質、PFHxSとその塩およびPFHxS関連物質

表 ストックホルム条約で廃絶対象となったPFOAとその塩およびPFOA関連物質、PFHxSとその塩およびPFHxS関連物質

POPsは、人や捕食者の頂点にいるような野生生物、例えば肉食の哺乳類(陸上ではホッキョクグマ、海ではシャチやイルカなど)や猛禽類(ワシやタカなど)への長期毒性を示す研究結果があり、さらに環境中での長期残留の可能性や生物体内への蓄積の可能性、長距離にわたる移動の可能性が明らかになっています。POPsによる人や野生生物への悪影響を減らすためには、製造と使用を廃絶・制限し、排出を削減するだけでなく、POPsが高濃度で含まれている廃棄物や使用済み製品を明らかにし、廃棄物から環境中に放出されるPOPsを削減することも欠かせません。しかし、今回の有機フッ素系のPOPs(フッ素化合物POPs)は、対象となる化学種が多く、その性状が様々であるため、製品分析・廃棄物分析・環境分析が容易ではなく、廃棄物と使用済み製品を適正に処理するための基礎情報がとても少ないことが課題となっていました。そこで私たちの研究チームは、フッ素化合物POPsを含む廃棄物を適正に処理するための調査や研究に取り組んでいます4

具体的には、下記の3つに取り組んでいます:(1)フッ素化合物POPsの混入が疑われる廃棄物とその関連製品(泡消火薬剤、撥水スプレー剤、防水繊維、耐水耐油紙など)について化学分析法を最適化し、フッ素化合物POPsの化学種とその含有量の解明、(2)防水繊維や耐水耐油紙などの混入が疑われる廃棄物の処理施設で大気モニタリングを行い、フッ素化合物POPsの発生源と排出量の解明、(3)有害廃棄物焼却法を踏まえた分解実験を行い、現行の分解技術によるフッ素化合物POPsの分解除去率の解明。こうしたフッ素化合物POPsを含む廃棄物と使用済み製品を適正に処理するための基礎情報を集め、廃棄物由来のフッ素化合物POPsの排出を削減するための方法を提案していきたいと考えています。

<もっと専門的に知りたい人は> <関連する調査・研究>
[第5期中長期計画]
  • 資源循環分野(政策対応研究)
  • 物質フロー革新研究プログラムPJ2 「物質フローの転換と調和する化学物質・環境汚染物管理手法の開発」
  • 物質フロー革新研究プログラムPJ3 「物質フローの転換に順応可能な循環・隔離技術システムの開発」
  • 包括環境リスク研究プログラム 3 全懸念化学物質の多重・複合曝露の把握を目指した包括的計測手法の開発に関する研究
  • 包括環境リスク研究プログラム 4 全懸念化学物質の環境動態の把握を目指した数理モデル的手法の開発に関する研究
  • 環境研究総合推進費3-2102 「新規・次期フッ素化合物POPsの適正管理を目的とした廃棄物発生実態と処理分解挙動の解明」
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