循環・廃棄物の豆知識
2016年10月号

PCB廃棄物処理に向けた取り組み

鈴木 剛

ポリ塩化ビフェニル(PCB)は、昭和29年から国内での生産が始まり、化学的な安定性、絶縁性、不燃性に優れることから、電気機器の絶縁油、各種工業における加熱・冷却用の熱媒体、感圧複写紙等に広く利用されてきました。しかし、製造過程でPCBが混入した食用油を摂取した人たちに健康被害が生じた事件、いわゆるカネミ油症事件(昭和43年)を契機に、PCBの慢性毒性、環境残留性や生物蓄積性が社会問題となり、昭和47年に通産省の行政指導によって製造が中止されています。昭和49年には、「化学物質の審査及び製造等の規則に関する法律(化審法)」でPCB製品の製造・輸入・使用が原則的に禁止されました(2009年9月7日号「化審法の改正」参照)。これ以降、日本では製造されていませんが、既存のPCB使用製品は、PCB廃棄物として長年の課題となっています。

PCB廃棄物は、当初全国39カ所で民間主導によるPCB処理施設の設置の動きがありましたが、施設の設置に関して住民同意が得られず、実に30年以上も保管されてきました。その後、保管の長期化による紛失や漏えいを通じた環境汚染の進行が懸念され、平成13年に「PCB廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」が施行され、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」に加え、PCB特措法に基づいて処理が進められています。PCB廃棄物を保管する事業者には、毎年保管や処分の状況について届出を行うことのほか、PCB特措法で定める期間内のPCB廃棄物の処分が義務付けられました。平成15年には「PCB廃棄物処理基本計画」、平成16年には「PCB廃棄物収集・運搬ガイドライン」等が制定され、PCB廃棄物の処理を円滑に進めるための制度が整えられてきました(2010年11月22日号「負の遺産 ポリ塩素化ビフェニル(PCB)廃棄物の処理」も参照)。

現状では、高圧トランス・コンデンサ等の高濃度PCB廃棄物(5,000 mg/kg以上)は、立地地域の関係者の理解と協力のもと、中間貯蔵・環境安全事業株式会社(JESCO)の全国5箇所(北海道、東京、豊田、大阪、北九州)の処理施設で処理されており、立地地域の関係者と約束した施設ごとの処理期限は、早いもので平成31年3月31日、遅いものでも平成36年3月31日とされています。低濃度PCB廃棄物(PCB濃度が5,000mg/kg以下のPCB廃棄物及び微量PCB汚染廃電気機器等)は、環境大臣が認定する無害化処理認定施設及び都道府県知事等が許可する施設で処理されており、処理期限は平成39年3月31日とされています。処理期限までに残された時間は、特に高濃度PCB廃棄物について長くない状況にも拘らず、高濃度PCB廃棄物の処分を処理施設に委託していない事業者や、現在も高濃度PCB使用製品を使用している事業者が存在しており、期限内処理の達成は容易ではありません。

このような状況を鑑みて、環境省は、処理期限内でのPCB廃棄物処理を着実に実施するため、今年5月にPCB特措法の一部を改正、それに伴い7月にPCB廃棄物処理基本計画の変更を発表しました。これまでも変更等は行われてきましたが、今回は基本計画を環境大臣が定める計画から閣議決定計画に位置付けており、政府一丸となって取り組む確固たる決意を表すものとなっています。基本計画の主な内容は、(1)PCB廃棄物の確実かつ適正な処理の推進に関する基本的な方針、(2)PCB廃棄物の発生量、保管量及び処分量の見込みと年度ごとの量の公表、(3)高濃度及び低濃度PCB廃棄物・使用製品の調査、関係者の連携強化と情報共有、(4)PCB廃棄物の処理施設の整備と処理体制に関する事項、(5)政府(すべての政府機関及びその関連施設)が保有しているPCB廃棄物について保管事業者として率先して実行すべき措置、(6)少なくとも1年ごとの基本計画の点検と見直し等となっています。

PCBは、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)(2016年2月号「POPs条約の最近の動向」参照)で、平成37年までの使用の全廃、平成40年までの適正な処分(PCB全廃)が求められています。前出の処理期限を考慮すると、PCB廃棄物処理はいよいよ待ったなしの様相になっているといえます。

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