日本は天然資源に乏しく、大量の鉱物・石油・食糧などを海外から輸入することで産業や日々の暮らしが成り立っています。そのため、国際的には貿易を通じた資源供給を安定化することと、国内的にはリサイクルを通じた資源循環を拡充することが求められています。こういった資源供給の安定化や資源循環の拡充をどうやったら実現できるでしょうか。まず、資源供給・循環には、採掘・生産・リサイクルなどを担う技術や施設、輸送や流通を支えるトラックなどのハードな要素が必要です。また、そういったハードを直接動かす人、事務作業に関わる人、そしてモノを消費してごみを出す人、そしてそれらの人々が協力する決まりや仕組みといった、ソフトな要素も必要です。ここで注目したいのが「ステークホルダー」で、これは、自治体や事業者などにとって直接的あるいは間接的に利害関係をもつ主体のことです。例えば、自治体にとってのステークホルダーは、国、事業者、市民、NPO・NGO、地域社会などがあげられます。最近では、様々な事業においてステークホルダーの意見を尊重し、それらの利害を調整することが社会的に求められるようになっており、これは資源供給・循環においても例外ではありません。ステークホルダーの調整は簡単ではありませんが、これが上手くいけば、前述したようにソフトな要素が充実し、資源供給の安定や資源循環の拡充が確実になります。
どのような資源であれ日本にとっては重要ですが、ステークホルダーとその関係性について考えるために、最近話題になっているリン資源(リンを含む鉱石、肥料、作物、生ごみなど)に注目することにします。リン資源は日本では鉱石のかたちでほぼ100%輸入されています。リン鉱石はその偏在性や国際情勢に左右される状況が懸念され、国際的な供給の安定化や、国内的な循環の拡充が期待されています。
リンを含む国際的な資源供給については、国立環境研究所でも研究が進んでいます。ここで、国際的なリン資源供給のステークホルダーとしては、例えばリン肥料の場合、リン鉱石の採掘業者、輸送業者、肥料製造業者、肥料や作物の卸売を担う農協、農家、作物の卸売・小売業者、消費者、生ごみ(「食品循環資源」と呼ばれることもあります)の収集・再資源化・処理・処分を担う自治体などがあり、互いにモノやお金などの流れで繋がっています。なお、生ごみの再資源化を事業者が担う事例もあります。このようなステークホルダーの関係性を図1に示します。リン資源供給を安定化するためには、この繋がりを強化することも大切ですが、もし、ステークホルダーが一人でも欠けると全体の流れが止まるというリスクがあるので、同じ役割をもつステークホルダーを複数確保しておくことが重要です。また、ステークホルダーが存在する国や地域の政治、経済、紛争などの情勢をしっかり理解して、より問題が小さい国や地域のステークホルダーを選ぶことも必要となります。
それでは、国内的なリン資源の循環の場合はどうでしょうか。生ごみの堆肥化を例にすると、ステークホルダーは、生ごみを分別排出する消費者から始まり、生ごみを収集して堆肥を製造する自治体、堆肥を使う農家、農作物の卸売に関わる農協、卸売・小売業者などとなり、再び農作物の消費者につながります。こういったリン資源の循環は、従来のごみ処理の代替システムとして市町村などの地域内で形成されることが多く、ステークホルダーもその地域内に存在することが多いといえます。このような関係性も図1に示します。図1で示される循環は完成形であり、実際には、農家が堆肥を受け入れなかったり、堆肥で栽培した農作物を小売業者が扱ってくれなかったり、様々な課題があります。こういった課題を克服してリン資源の循環を拡充するためには、堆肥を使った農作物の栽培をテストして農家に信頼してもらったり、農作物の取り扱いを事前に小売業者にお願いしたりする対策が考えられます。リン資源の循環が成功している地域の事例を調査すると、事業を推進する自治体あるいは再資源化業者がそういった事前の調整活動を入念に行い、関係者の理解を深めていたことが分かりました。また、国内的(地域的)に堆肥の利用が増加した場合、その分だけ化学肥料の利用・製造が減り、リン鉱石の採掘量も減ることになります。ですから、肥料製造業者や、リン鉱石の輸送業者、採掘業者にも影響が及ぶことになります。ただ、実際には日本の国内(地域内)で生ごみの堆肥化の量に比べて、世界的なリン鉱石の採掘や化学肥料の製造の量は非常に大きく、現時点での影響はごくわずかと思われます。
以上で説明した、国際的なリン資源供給の安定化、および地域的なリン資源循環の拡充という2つの政策に関して、ステークホルダーとその活動、および各政策における具体的な利害を表1にまとめました。表1に示されるような各ステークホルダーの利害がなるべく偏らないように調整することも必要です。
さいごに、リン資源に限らず、資源の国際的な利用と国内的(地域的)な循環はいずれもますます重要となっています。各々の場面で有効なステークホルダーの調整方法を考え、実行していくことが求められています。
(黄色は業者、緑色は農業関係者、薄い青色は消費者、濃い青色は自治体を表す)
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