2007年3月19日号
はかる貴田晶子
「はかる」という言葉には「計る」、「測る」、「量る」などの漢字が当てはめられます。「計る」は数量や時間を数え上げること、「測る」は高さ、長さ、広さ、深さ、速さを調べること、「量る」は容量や重さを調べることです。 科学的な事柄を明らかにするために、何らかの形で「はかる」ことが必要です。公害の防止が最優先だった時代では、排出源から排出される有害物質の濃度を「はかる」ことが重要でした。環境問題としての意識が高まった現在では、地球規模で「はかる」ことによって、温暖化や地球規模で移動する有害物質の対策が始まっています。 「はかる」ことは縁の下の力持ちです。環境問題がどのように起こるのか、実態はどうなっているのか、どのようにしたら解決の道が探れるのかといったことを明らかにするために必要な「技術」です。 一般に「はかる」方法には、物理的・化学的・生物的な方法があります。有害物質には、主に物理・化学的原理を利用した機器分析が利用されます。ヒトや生態系への影響(毒性)を調べるためには、生物を用いた方法(バイオアッセイ)が利用されます。 「はかる」対象には、有害性が明らかで既に規制されている物質、新たに環境上問題となる可能性のある物質群が含まれます。例えば、私たちが使用している製品の品質や性能を高めるために様々な添加物が使用されていますが、それらすべての物質の毒性が分かっているわけではありません。 生物や河川・海域の底質に濃縮されたり、過去に比べて濃度が高くなっている物質には注意が必要です。地球規模で注意が必要と考えられている、このような物質群を残留性化学物質(POPs、PHSと略される)と呼び、国際的に対策が検討されています。POPs物質として新たに検討すべき物質が常に追加されるため、 研究者は新しい分析技術をもってそれらを「はかる」用意を調えておかねばなりません。私たちの研究センターでは、測定方法が未確立の物質の試験法を決め、循環・廃棄過程における物質の挙動を調べることをはじめています。 私たちの「はかる」対象(試料)はごみの発生から破砕・圧縮、焼却、リサイクル、埋立など廃棄・循環過程に関係するものです。作業環境や大気中への排出ガス、排水、焼却灰、溶融物などのほか、土壌などの環境試料も含まれます。また製品に含まれる有害物質の使用量を低減させることも大切で、 潜在的な廃棄物として「製品」も対象物です。多くの部品を含み、また複合素材も多い製品中の有害物質の分析は、これまでの分析とは異なる新たな課題として取り組んでいます。また、難燃剤として多くの製品に用いられている臭素系難燃剤やその燃焼に伴って生じるダイオキシン類縁化合物などについては、 これまで機器分析やバイオアッセイよってはかってきましたが、有害性が懸念される新たな物質群のヒトへの影響評価について、新たな手法開発も行っています。 さて、今日本では3R(廃棄物の発生抑制、再使用、再利用)を促進する動きが進んでおり、新たなリサイクル技術も多く開発されています。ところが、その技術が新たな有害物質の発生源になるかもしれません。またリサイクル現場で作業する人々への曝露も考える必要があります。このような潜在的な有害性を減らすために、まず「はかって」「知る」ことからはじめる必要があります。 しかし、これでは「はかる」対象の有害物質は増えるばかり、事業者の分析費用も増すばかりということになります。このような状況に対して、私たちは「簡易法」をキーワードにして、今よりも簡易な試験法の開発、すでにある簡易な試験法の利用拡大の見極め、精度管理といったことを行っています。廃棄物の循環利用が必要な測定データに裏付けられてうまく進むよう、 政策的にも必要な(事業者や自治体に役に立つ)内容の研究といえます。例えば、廃棄物や焼却灰などを溶融処理して得られるスラグという物質がありますが、これを再生材として道路を造るときの材料などに利用する際には、スラグからの有害物質の溶出量や含有量が一般土壌と同レベル以下であることが求められます。そのため、日常管理すべき限られた項目について現場で測定可能な試験法を開発しています。 このように、資源循環を進めてゆくこと、また有害物質による環境影響を少なくすることに努める中で、うまく「はかる」ための基礎的な研究も行っているのです。 |
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