循環・廃棄物のけんきゅう
2017年1月号

焼却灰中の放射性ストロンチウムを測定する

山本 貴士

はじめに

2011年3月の福島第一原子力発電所事故では、様々な放射性物質が環境中に放出され、東日本の広い範囲に降下、沈着しました。放出量の多さや半減期の長さから、人への影響が懸念される主要な放射性物質は放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)であり、放射性物質汚染対処特措法の対象とされています。事故以来5年が経過し、原子力発電所により近い地域での災害廃棄物処理や除染が本格化しつつある中、放射性セシウム以外の半減期の長い放射性物質の濃度やこれらを含む廃棄物を処理する際の挙動、例えば焼却減容化の際の焼却灰への濃縮傾向についても、知っておく必要があると私たちは考えました。例えば、放射性ストロンチウム(ストロンチウム90)は半減期が28.8年とセシウム137(半減期30.2年)にほぼ等しく、また、半減期が年のオーダーの放射性物質の中では事故による放出量がセシウム137(1.5×1016 Bq)に次いで多い(1.4×1014 Bq)1) 放射性物質です。放射性物質で汚染された廃棄物処理時の放射性セシウムの挙動の把握が進んできたのに対し、じゅん&たまきストロンチウム90の挙動についての知見は不足しています。一方で、ストロンチウム90は崩壊の際にガンマ線を出さないため、ガンマ線を検出して測定する放射性セシウムと同じ方法では測定ができません。ストロンチウム90を測定するためには、複雑な前処理操作によりストロンチウム90を単離し、約2週間経過後に生成したイットリウム90のベータ線を測定する必要があります。このように、測定に複雑な操作と時間を要することから、廃棄物処理分野でのストロンチウム90の測定例は多くありません。

ストロンチウム90の簡易測定法の開発と評価

このため、私たちは焼却灰試料に含まれるストロンチウム90を簡易に測定する方法を検討しました。放射性ストロンチウムの標準的な測定法として、文部科学省の方法2) があります。この方法では、ストロンチウムを単離するために陽イオン交換樹脂を用いた分離と水酸化鉄処理を行いますが、沈殿の生成やろ過、溶解を幾度も繰り返す必要があります。この操作を簡易にするために、ストロンチウムを選択的に吸着するディスク形の固相(ラドディスクSr)を用いることを考えました。しかし、焼却灰にはラドディスクSrへの吸着を妨害するバリウムやカルシウム、ベータ線測定の妨害をする鉛やビスマスなど多くの元素が含まれているため、焼却灰の酸分解液をアルカリ性にして鉛やビスマスを水酸化物として除去し、続いてクロム酸処理によりバリウムやカルシウムを除去した後にラドディスクSrを通過させてストロンチウムを回収する手順を考案しました。

この簡易測定法と、文部科学省の方法)を焼却灰に対応できるよう水酸化物処理と発煙硝酸処理、クロム酸処理を追加した方法(改文科省法)を用いて、2011年7月から2013年11月にかけて東日本に立地する焼却施設8施設で採取した焼却灰14試料中のストロンチウム90の濃度を測定しました。簡易測定法と改文科省法の双方で測定した飛灰試料では簡易測定法と改文科省法の結果はよく一致しましたが、主灰試料では改文科省法で濃度が得られたものの簡易測定法では不検出となりました(検出下限値2.1 Bq/kg)。さらに、簡易測定法を適用した主灰試料の多くで不検出となり、測定結果が得られませんでした。このことから、焼却灰中のストロンチウム90の簡易測定法については、引き続き開発を進めているところです。

ストロンチウム90の焼却灰中濃度とその傾向

今回の研究で、簡易測定法と改文科省法により測定した焼却灰中のストロンチウム90濃度は、飛灰が2.3~7.8 Bq/kg、主灰が3.1~7.2 Bq/kg(いずれも採取日に減衰補正した値)であり、私たちが2012年12月に福島県内の一般廃棄物焼却施設で行った調査結果(飛灰11.0 Bq/kg、主灰9.2 Bq/kg、採取日に減衰補正した値)と同程度であり、東日本地域での焼却灰中のストロンチウム90の濃度は、概ね一桁Bq/kgであることが分かりました。ストロンチウム90とセシウム137の濃度の比は1/130~1/5200と、土壌沈着量の比と同程度でした。

また、放射性セシウムは焼却過程で飛灰に濃縮されることが知られています。放射性セシウム(セシウム134とセシウム137)の飛灰中濃度と主灰中濃度との比は5.16~11.3であり、今回の調査でも放射性セシウムは飛灰に濃縮されていることが分かりました。一方、ストロンチウム90の飛灰中濃度と主灰中濃度の比は0.375~1.33であり、放射性セシウムほど飛灰に濃縮されないことが分かりました。

今後は、他の放射性物質を含め、焼却灰など廃棄物処理に関連する関連中の濃度や処理過程での挙動について、研究を展開していきたいと考えています。

<もっと専門的に知りたい方へ>
  1. 山本貴士、塙章、竹内幸生、滝上英孝、大迫政浩、貴田晶子 (2014) 焼却灰試料中の放射性ストロンチウムの簡易測定法に関する検討、環境放射能除染学会誌、2(4)、263-269.
  2. 山本貴士、竹内幸生、大迫政浩 (2015) 焼却灰中放射性ストロンチウム濃度の測定、第26回廃棄物資源循環学会研究発表会講演原稿、391-392.
<引用文献>
  • 1) 経済産業省報道発表:放射性物質放出量データの一部誤りについて、平成23年10月20日、http://f-archive.jaea.go.jp/handle/faa/1068/ (2017年1月11日閲覧)
  • 2) 文部科学省:放射能測定法シリーズ2-放射性ストロンチウム分析法、平成15年7月
<関連する調査・研究>
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