循環・廃棄物のけんきゅう
2016年12月号

電気と微生物の共同作用による有機性排水・廃棄物からの水素生産収率の向上

小林 拓朗

都市ごみからの発酵による水素生産とその限界

水素を使う燃料電池は、次第に私たちの生活にとって身近なものになってきました。2014年に閣議決定されたエネルギー基本計画では、電気、熱に加え、水素は将来中心的役割を担うエネルギーとして位置づけられています。水素自体は、燃焼によってCO2を発生しないクリーンエネルギーと考えられていますが、その製造過程ではCO2の発生が伴います。製造においても低炭素化が期待できる方法として、バイオマス・廃棄物からの水素生産技術に対する関心が高まっています。その技術は物理化学的なものと生物化学的なものがあります。生物化学的な水素生産技術として、とくに廃棄物を対象とした場合、比較的容易に適用可能なのが暗条件水素発酵 (dark hydrogen fermentation) です。"暗条件"が頭につくのは、シアノバクテリアや藻類を使った光合成水素発酵と区別するためです。暗条件水素発酵 (以下水素発酵) では、特定の嫌気性細菌の持つ単純な代謝経路で水素が発生します。まず1 molの単糖 (C6H12O6) からピルビン酸 (CH3COCOOH) が生成する過程で、2 molの水素が生成します。この後はいくつかの経路に分岐しますが、最も多くの水素を生成する経路では1 mol のピルビン酸からアセチルCoAを生成する過程で1 molの還元型フェレドキシンが生成します。この還元型フェレドキシンが酸化される際に1 molの水素が生成します。アセチルCoAは2 molの酢酸へと変換されます。このような仕組みで、1 molの単糖からは最大で4 molの水素が生成します。これとは別に、酪酸を生成する経路では、2 molの水素と1 molの酪酸が生成します。

私たちは細かな品目に分別された都市ごみを使って、次のような実験を試みました。ごみの種類は、肉・魚等の調理くず(動物性厨介)、野菜等の調理くず(植物性厨介)、ごはん等の食べ残し(残飯)、草本類、チラシ・パンフレットや包装紙などの雑かみ、それらの混合ごみの7つです。まずそれぞれのごみ品目から水素発酵により水素を回収し、さらに水素発酵の残さをメタン発酵によってメタンへと変換しました。その結果の一部が図1に示されています。図1の棒グラフの単位は1 gのVS (強熱減量: 主に有機物を指す) からの水素およびメタンの生成量 (標準状態) を表しています。この図が示しているのは、都市ごみから生成する水素は明らかにメタンよりも少なく、高くても3分の1程度であるということです。なぜこのようになるのでしょうか?上で言及したように、水素は糖の代謝から生成するので、都市ごみの中に含まれる炭水化物だけが水素を生成する可能性を秘めているといえます。ところが実際には、都市ごみ中の有機物は、タンパク質や脂質も大きな割合で含んでいます。タンパク質や脂質は、発酵によって水素を生成しませんが*、メタンを生成することは可能です。さらに、水素発酵で副生する酢酸や酪酸のような有機酸もメタンを生成します。ですから、図1に示されているメタンは、水素発酵の結果生成した有機酸と、水素発酵では利用されなかったタンパク質や脂質から生成したと考えることができます。ここで、都市ごみの有機物の組成に着目すると、残飯はVSに占める炭水化物の割合が8割程度であるのに対して、例えば動物性厨芥は炭水化物の割合が1割程度です。残飯からの水素生産が比較的大きい理由は、高い炭水化物含有量にあるといえそうです。とはいえ、野生の微生物群集を使う実廃棄物の水素発酵では、炭水化物がいつも理想的な酢酸生成経路を取るわけではないので、1 molの糖からの水素生成量は高くても平均2.0~2.8 mol程度です。一方で、草本類や雑かみは炭水化物の割合が5~9割もありながら、動物性厨芥よりもさらに低い水素生成量を示しました。これらのごみは、炭水化物の中でもセルロース類を主成分としています。セルロース類は、難生物分解性で、通常の水素発酵の下ではほとんど分解されず、水素を生産しないことが知られています。このように、都市ごみからの発酵による水素生産は、セルロース類以外の容易に分解する炭水化物分からしか期待できず、ほとんど炭水化物分から構成される残飯であっても、メタンよりずっと少ない量しか回収できないということがわかりました。発酵ガスからの水素製造方法としては、メタン発酵から回収・精製したメタンガスを、触媒等を用いて水素へ変換する方法も存在します。生産されるガスがほとんどメタンであるという事実を踏まえると、水素・メタン二段発酵は、上の方法と比べて、優位性が不明瞭であるといわざるを得ません。

図1 都市ごみの各品目からの水素生成量および水素発酵残さからのメタン生成量
図1 都市ごみの各品目からの水素生成量および水素発酵残さからのメタン生成量

電気と微生物の共同作用による有機性排水・廃棄物からの水素生産

近年、"微生物燃料電池"や"微生物電気分解"といった電気と生物の共同作用を利用した廃棄物からの電気・燃料生産技術の研究開発が進められています。微生物電気分解は、微生物燃料電池とよく似た装置構造をしており、技術の鍵となるのは、代謝の過程で外部との電子のやりとり (放出または受容) を行う電気活性微生物です。有機物分解に伴って電気活性微生物によって負極へ伝達された電子は、外部回路を経由して正極へと移動します。微生物電気分解では、微生物燃料電池とは異なり、有機物だけでなく、外部電源からも電子を供給し、正極での反応を促します。正極では供給された電子を利用して水素やメタン、その他の有価物の生産を伴う還元反応が行われます。微生物電気分解の場合には、電極から供給された電子を受容する電気活性微生物が還元反応を担うことがあります。

水素生産型微生物電気分解は、電気活性微生物から産み出される起電力と外部電源に由来するそれとによって、正極で水素イオンを水素へと還元して、燃料として回収することを目的としています。水素発酵と同じように、単糖からの水素生成量と考えると、1 molの単糖の酸化は、次式のように24 molの電子を生産します。

C6H12O6 + 6H2O → 6CO2 + 24e- + 24H+

この電子が全て負極へ伝達されたとすると、正極では次のような反応で12 molの水素が発生します。

24e- + 24H+ → 12H2

つまり、1 molの単糖が12 molの水素を生産することになり、水素発酵の3倍の収率です。ここでは単糖の酸化だけを考えましたが、それ以外の有機物から供給される電子も水素へと変換可能なので、都市ごみからの水素収率はそれ以上が期待できます。

私たちは、図2のような微生物電気分解装置を使って、混合都市ごみの液分からの水素生産を試みました。その結果、2日間の培養で1 gのVSから1465 mlの水素を生産することが可能でした。上で示した12 mol/mol-単糖を踏まえると、1 gの単糖からは1493 mlの水素が生成することになります。従って、これに匹敵し、図1で示されている混合ごみからの発酵による水素生産の40倍もの高い水素収率が達成されたことになります。また、投入したごみの有機物分は約8割が分解されており、生物化学的廃棄物処理装置としても十分に機能していることがわかりました。

しかしながら、これまでのところ、処理装置として次のような問題を抱えていることがわかっています:(1)単位容積あたりの処理速度が低い。(2)固形状の有機物からの電子伝達効率が悪く、受け入れは液状物に限定される。これらはどちらも電気活性微生物による電極への電子の伝達メカニズムに理由があります。電気活性微生物が電極へと電子を渡すためには物理的な接触が必要なので、それを促すためには有機物の分解反応も電極の近傍で起こす必要があります。つまり、反応速度が電極に付着する微生物量に依存すること、電極に付着する微生物が有機物を摂取しやすくする必要があることがそれぞれわかります。(1)の問題は電極への付着微生物量が少ないこと、(2)の問題は電極に付着する微生物に対してうまく有機物が行き渡らないことに原因があると考えられます。以上を踏まえて、電極と微生物間の相互作用の理解の進展と、効率化のための制御を目指して、引き続き研究に取り組んでいます。

*厳密には、タンパク質や脂質の分解には上述の水素発酵とは異なる水素を生成する代謝も含まれるのですが、水素を消費する代謝とセットになっているので、正味の水素生成量がほとんどないということです。
図2 都市ごみからの微生物電気分解による水素生産
図2 都市ごみからの微生物電気分解による水素生産