福島第一原子力発電所事故により放出された放射性セシウム(Cs)によるコンクリートの汚染と除染に関する知見について、2015年3月号にてご紹介しました。今回は、より具体的な除染・再利用プロセスについて説明いたします。まず、前回の記事の概要をまとめます。
今回は、その後の研究により明らかになってきた新しい知見をまとめ、除染とさらに再利用に関する筆者の考え方を説明します。
前回の調査範囲は道路側溝の蓋など道路関連施設のコンクリートでしたが、今回は建築物の調査も行いました。放射性Csは放射壊変によりβ線とγ線を放出します。β線は物質中をより進みにくく、γ線はより進みやすい性質を持っています。異なる濃度の放射性Csがコンクリート表面にあると仮定すると、β線とγ線の強度には比例関係が期待できます。しかし、放射性Csがコンクリート内部にある場合、β線はコンクリートに遮蔽され表面に出てきませんが、γ線は透過性が高いため強度は低下するものの表面に出てきます。したがって、β線とγ線の測定結果を比較することで、放射性Csが表面にあるのかどうかを評価することができます。
実際に屋外で放射能汚染したコンクリートを測定したコンクリートについて、放射線を検出する装置にも種々のものがありますが、β線とγ線をNaIシンチレータ(γ線を主に検出)とプラスティックシンチレータ(PS、β線を主に検出。GM計数管も同じ機能)により測定した例を図1に示します。道路側溝蓋からのサンプルの多くは、同一の線上にプロットされ、汚染がごく表面に留まると考えられます。しかし、大谷石や建築用コンクリートブロックのように多孔質なものは、線の上部に位置し、放射性Csがより内部へ浸透していることを示しています。
ではコンクリート表面に放射性Csは均一に分布しているのでしょうか?コンクリート構造の表面をβ線ラジオグラフにより測定した結果を図2に示します。放射性Csの分布は均一ではなく、点在していることが分かります。この表面は、ある程度の時間を経たもので、セメントペーストが欠落し、骨材が露出し、その部分が光っているように見えます。何が放射性Csの吸着点なっているのか、現時点では明確ではありません。
さらに深さ方向の放射性Cs分布を直接に観察することにします。同じコンクリートでも、一部のものではより内部に放射性Csが浸透していることが図1からは推測されます。そこで、図3にコンクリート断面のβ線ラジオグラフを示します。図の上方向がコンクリート表面となり、下方向が内部です。コンクリート表面上部が明るくなっているのは、β線を遮るものがないため、コンクリート表面からセンサーへ直接拡散して届いているためです。下の図ではコンクリート部分は黒いままで内部への浸透が認められませんが、上の図では、コンクリート部分も薄く光っており、放射性Csが内部へ浸透していることが分かります。また、黒い影の部分は骨材に対応していると思われ、コンクリート中の骨材を避け、セメントペースト部分を介して、放射性Csは移動しているようです。これは、放射性Csが降雨により地表にもたらされたため、コンクリートへ水が吸水される際に一緒に移動した可能性を示していますが、内部に浸透する場合としない場合が何に起因するのかは明確になっていません。実験室で放射性同位元素を浸透させると、2015年3月号で示したように数cmもコンクリートに浸透しますが、現実のコンクリートではごく表面しか汚染していないことが分かってきました。
放射性Csに汚染したコンクリートはどのように除染・再利用すればよいでしょうか?調査結果に基づき処理フローを提案します(図4)。
まず、もとの形で汚染した場合と、地震や津波によりガレキ化後に汚染した場合に分けます。
残存する場合は、汚染深さにより区分し、かつ汚染レベルを判断し、無処理で再生するか、表面部分を除去し、汚染が濃縮した除去物と利用可能な再生がらにするフローに分けます。汚染深さはγ線とβ線の関係から推定可能ですが、現場では環境中のγ線線量率が高いために対象物のγ線計測ができず試料を低線量率環境に持ち出す必要があります。
ガレキ化の場合には、表面部分の除去が困難な場合も多いと想定され、その際は、粉砕し、汚染度の低い骨材を含むがらと汚染度の高いセメントペースト(粉体)に分離します。ただし、このように骨材とセメントペーストを分離する処理にはコストがかかるので、再利用が困難となる場合もあるでしょう。
多くのコンクリートの放射能汚染が表面に限定されていることを考えると、現場での測定値をもとに、コンクリートをそのまま粉砕した場合の放射能濃度(平均的汚染度)を推定可能です。現場で遮蔽体を用いGM管で計数し、それをあらかじめ得ておいた現場と低線量率環境の実験室の関係から、表面汚染密度に変換します。さらに粉砕するコンクリートの厚さが分かれば、粉砕後の放射能濃度を得ることができます。いくつかの事例を表1に示します。1段目の事例では、表面汚染濃度は137Bq/cm2でした。このコンクリートの厚さを10㎝とすると全体の放射能濃度は5957Bq/kgとなります。
最新の指針*)では、8000Bq/kg以下は一定の配慮の元再利用できるわけですが、本コンクリートは除染することなく、粉砕して再利用可能なわけです。しかし、より低い放射能濃度が求められることもあるかもしれません。その際の目安も計算することができます。2段目は、粉砕したがらの放射能濃度が3000Bq/kgとなるような場合の現場でのGM管の計数値を示しています。もちろん全体が同じ放射能濃度となることを考えると、コンクリート厚さが倍になれば、表面汚染度も倍ということになります。もしクリアランスレベル100Bq/kgとしたい場合には、除染後の目安を示すこともでき、その数値を5段目、6段目に示します。
福島第一原子力発電所の事故に由来する放射性Csでコンクリートがどのように汚染されているのか、屋外調査が進んできて、汚染深さに関する状況が分かってきました。コンクリートは破砕すれば路盤材などにより有効な再利用が可能ですし、公共工事のように利用先を追跡調査できる、かつ有効な遮蔽ができれば、水による溶脱は無視しえるため、安全に再利用化可能です。いたずらに放射能を恐れることなく、技術合理性を持って資源として有効利用に貢献することを国立環境研究所は目指しています。
一方で、コンクリートは放射能汚染した廃棄物の長期保管や処分にも利用されます。この場合は、汚染物の物理化学的特性によってはコンクリートに影響を与える恐れがあり、この観点からも研究を進めております。次の機会には保管施設の観点から解説します。