循環・廃棄物のけんきゅう
2016年1月号

拡大生産者責任に対する考え方の国際調査

田崎 智宏

リサイクル制度における生産者の責任に関する認識の不一致

以前、「拡大生産者責任とリサイクル」という記事で紹介しましたが、リサイクル・廃棄物処理における新しい政策アプローチとして「拡大生産者責任」という考え方が90年代以降、日本をはじめとする先進国から導入されてきました。例えば、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法といった法律にはこの考え方が導入されています。それまでの生産者の責任は、製造物責任に代表されるように、製造した製品が期待される性能を発揮し、製品に起因する事故が起こらないようにすることがありました。つまり、生産者が、製品が使用される段階まで責任を持つということです。しかし、それでは、廃棄物として処理しにくい製品やリサイクルしにくい製品をつくらないようにするなどといった配慮がされません。そこで、生産者の責任を廃棄・リサイクル段階まで拡大して、社会的によりよい状態をつくり出そうという拡大生産者責任の考え方が登場しました。しかしながら、誰が生産者なのか、どんな責任を果たすべきなのかといった拡大生産者責任の中身については人によって様々な考え方がされ、リサイクル制度の議論において最も対立しやすい論点の一つとなっていました。

それであれば、どういった違いがあるかを認識することが議論の第一歩であり、国や立場によってどのような傾向があるかを知ることが大切ではないかと考えました。たまき&じゅんまた、これらの認識は、各国が容器包装や家電などのリサイクル制度のなかで拡大生産者責任を適用してきたなかで育まれてきたものといえますので、過去十数年の経験をふまえて拡大生産者責任の考え方を見直し、組み立てなおすことにもつなげられると考えました。このような考えを背景に、私どもとスウェーデンのルンド大学が共同して、拡大生産者に対する考え方の国際アンケート調査を実施しました。全世界の有識者1,103名に依頼し、426名から回答を得ています(回答者には、生産者、学者、行政官、廃棄物業者、コンサルタント、環境NPOなどが含まれます)。

拡大生産者責任の目的

得られた研究成果のなかで、今後のリサイクル政策を考えるうえで念頭に入れるべき点を紹介します。それは、拡大生産者責任の目的です。国際調査では、考えうる16の目的についての重要度を質問しました。このうち主要な6つの目的について、その回答を得点化して0~3点の重要度で示した結果が下図です。この図では、欧州、北米、アジア、日本の4地域の平均値を比較しており、4地域の差が小さい目的から順に左側から並べています。では、この結果からどのようなことが読み取れるでしょうか。日本(オレンジ色の折れ線)と他の3つの地域を比較してみましょう。

図拡大
図 拡大生産者責任を適用することによって達成されるべき目的の重要度の違い

まず、日本では、拡大生産者責任を適用することによって新たなビジネスモデルと廃棄物処理に関するイノベーションを促進させることは比較的重要視されていないことが分かります。日本では、リサイクル法を作って生産者を巻き込んでリサイクルを進める場合に、ビジネスの振興や技術の発展という視点が弱いことを暗示しています。別の見方をすれば、日本人や日本企業が海外でのリサイクルを考える場合には、リサイクルによる収益性や事業としての持続性にもっと留意をしなければならないということと理解できるでしょう。現在、EUでは循環経済(circular economy)という考えを旗印に、リサイクル政策などが展開されようとしています。このなかでは、これまでのリサイクル・廃棄物政策よりもビジネスの視点や雇用の視点が強く意識されています。廃棄物が資源として国際的に移動するようになってきた現在では国際的な視点がリサイクル政策にますます必要になっていますので、日本で弱い視点を意識していくことは大切なことです。

他方、日本の重要度が高い目的を見てみると、製品の解体性やリサイクル性を向上させることや、廃棄物処理を行う人々に製品情報を伝達することが他の3つの地域よりも重視されている結果となっています。前者は、製品を設計する時点から廃棄物処理のことを考えるということ、後者は、廃棄物処理を行う人と生産者との情報交換を促進させることでもあり、いずれも、いわゆる動脈と静脈、言い換えれば、モノづくりを行う人とモノの後片付けをする人との結びつきを強くしようというものです。これは非常に大切なことです。なぜならば、産業・経済が高度に発展するなかで、動脈と静脈との間に分断が起こり、廃棄物問題が深刻化してきたという歴史が多くの先進国で経験されてきました。この原因構造に対し、付け焼き刃的な対応をするのではなく、動脈と静脈をつなげるという構造転換をもって対処するという本質的な対応が重視・理解されているといえるからです。

拡大生産者責任に関する研究の今後

前述の通り、拡大生産者責任についての考え方に国際的な違いがあることが確認できました。次のステップは、それらの違いを乗り越えて、現在や将来の状況に合致したリサイクル制度を適切に設計することです。日本では、冒頭で述べた個別リサイクル法の見直しが順番に議論されています。また、海外に目を向ければ、途上国において拡大生産者責任をどのように適用していくべきかという論点もあります。よりよい制度設計のために、拡大生産者責任を各国のリサイクル法に適用するガイダンスマニュアルが経済協力開発機構(OECD)によって2001年に作成されていますが、現在はその後の約15年間の経験に基づいてアップデート作業が進められています(当方も専門家として議論に関わっています)。しかしながら、例えば、製品設計の改善を促すような制度設計についての知見は十分でないなど、制度設計のための知見は十分に蓄積することができていません。したがって、各国の経験をより客観的な形でモニタリングして、目標達成に効果的であった、あるいは効果的でなかった事項をきちんと整理することもこの分野の研究に求められています。

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