けんきゅうの現場から
2016年10月号

アジアのインフォーマルE-wasteリサイクルにおける金属回収効率を調査する

小口 正弘

アジアのE-wasteリサイクル

イラスト私たちの研究センターでは、アジアの途上国においてE-waste(廃電気電子機器)のリサイクルに関するフィールド調査研究を行っています。これまでの記事(2015年1月号E-wasteリサイクルに伴う有害化学物質のゆくえ2015年1月号E-wasteと健康の関係をしらべる2011年12月号E-wasteリサイクル現場の土とダストを調べる)でも紹介があったように、途上国でのE-wasteの不適正なリサイクルに由来する環境汚染問題が指摘されています。一方で、それらのリサイクルもE-wasteに含まれる金属などの資源の有効利用に一定の貢献をしていることは間違いありません。しかしながら、E-waste に含まれる有用資源をどの程度回収できているか、その回収効率については不明です。そこで私たちは、アジア途上国のE-wasteリサイクルにおける環境汚染調査だけでなく、資源の回収効率の調査も行っています。

フィリピンのインフォーマルE-wasteリサイクル施設での貴金属回収

私たちはこれまでに、フィリピン・マニラ近郊のメイカウアヤン(Maycauyan)という場所を数回にわたって訪問し、電子部品製造工程から発生する金メッキ部品の廃材や使用済み機器から取り出した電子基板等のE-wasteから金の回収を行っている施設を調査してきました。調査した施設は非認可でリサイクルを行なっているインフォーマル・リサイクルと呼ばれる施設です。なお、メイカウアヤンは昔から貴金属の回収や取引で知られたところで、E-wasteからの貴金属回収施設も多数存在しています。

これまでに数施設を訪問しましたが、金の回収は大体同じ方法で行われていました。まず、廃材や電子基板を温めた薬液に漬けてE-wasteに含まれる金を薬液中へ溶かします(①)。廃材や電子基板を薬液から取り出した後、薬液を加熱して水分を蒸発させ、濃縮します。濃縮されてペースト状になった薬液を粘土製のるつぼに入れて融剤とよばれる物質を加え、灯油を使ったバーナーで熱します(②)。そうすると、融剤が溶けて金以外の不要な物質を取り込み、スラグと呼ばれる溶けたガラスのようなものが出来ます。るつぼを傾けてこのスラグを捨てていき、るつぼに金を主体とする金属を残します。これを水で冷やして金として回収します(③)。また、電子基板からの金回収では、場合によっては基板の上のICチップを取り外してバーナーで炙り、粉砕(④)したものを工程②-③と同じ方法で処理することもあります。これは、①の作業では直接溶かし出せないICチップ内部にある金を回収するためです。

これらのプロセスは金回収の原理としては一般的なもので、日本などでも基本的には同様の原理を用いた工業的な金回収プロセスがあります。しかし、日本などの工業的プロセスでは安定した回収のため操作や処理条件が管理されているのに対し、フィリピンのインフォーマル・リサイクルでは加熱等の操作は作業者の経験に基づいて行われ、条件も厳密に管理されていないと考えられます。このため、十分かつ安定した金回収効率が得られていない可能性もあります。

  • 電子基板を薬液処理して金を溶かし出す① 電子基板を薬液処理して金を溶かし出す
  • 融剤を入れてバーナーで熱し、スラグを作る② 融剤を入れてバーナーで熱し、スラグを作る
  • 電子基板から回収した③ 電子基板から回収した金
  • ナイフを使って電子基板からICチップを取り外す④ ナイフを使って電子基板からICチップを取り外す
図 フィリピンのインフォーマル・リサイクル施設におけるE-wasteからの金回収作業の様子(例)

金回収効率の調査

イラストそこで私たちは、フィリピン大学の共同研究者の協力のもと、フィリピンのインフォーマルな金回収プロセスでのE-wasteからの金回収効率を調査してきました。具体的には、訪問先の施設へ電子部品廃材や電子基板のサンプルを持ち込んで実際と同じ金回収作業を行ってもらい、使用する薬剤等や各工程で得られる産物(スラグや金回収物)をサンプリングして日本へ持ち帰り、その成分を分析することで金の回収効率を計算しました。

調査では、薬剤等の使用量を測るためにこちらの用意した容器を使ってもらったり、サンプリングをするために作業を途中で止めてもらったりする必要があります。事前にフィリピン大学の共同研究者と入念に打合せをした上で、調査の間も共同研究者を介して作業者に随時こちらの希望を伝えて作業をしてもらいますが、インフォーマル施設の作業者は英語を話さないこともあって希望通りに進まないこともあり、調査は中々大変です。

調査結果は現在整理しているところですが、E-wasteの種類や処理方法によって金の回収効率は大きく異なり、E-wasteに含まれる金がほとんど回収できない場合もあることがわかってきました。このことは、金だけを見てもインフォーマル・リサイクルでの金属回収ではE-wasteに含まれる資源を十分に回収できていないと言えます。これに対し、同様のE-wasteをより高度な回収技術を持つ日本の製錬施設などで処理すれば、より多くの金が回収できるだけでなく、金以外の有用金属の回収も可能です。アジア途上国からのE-wasteの輸出入には法的な制限や課題も多々ありますが、より効果的なE-wasteリサイクルに向けてアジア地域での資源循環のあり方を引き続き考えて行きたいと思います。

この調査研究は環境省環境研究総合推進費補助金「アジア諸国における使用済み電気電子機器・自動車の排出量推計と金属・フロン類の回収システムの効果測定」(3K143010)において行ったものです。

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