資源循環・廃棄物研究センター(循環センター)では、放射性物質に汚染された廃棄物の問題に関して様々な取り組みを行っています(2012年9月号「放射能汚染廃棄物の問題と循環センターの取り組み」、2013年9月号「災害廃棄物・放射能汚染廃棄物への取組~これまでとこれから」参照)。その中の一つに焼却施設での調査(2013年4月号「放射性物質に汚染された廃棄物の焼却施設の現地調査」参照)があります。焼却施設の点検や修理における作業員の安全性を確保するためには、施設内における放射性セシウムの蓄積状況(放射性セシウムのホットスポットなど)を調査し、挙動を把握する必要があります。今回はその調査の一つである焼却炉内耐火物への放射性物質(放射性セシウム)の蓄積実態調査について紹介したいと思います。
放射性セシウムに汚染された廃棄物を焼却処理すると、焼却した灰に放射性セシウムが濃縮されることをご存知の方も多いかと思います。この焼却処理過程において、焼却灰だけでなく、焼却炉内耐火物に放射性物質が蓄積することが懸念されています1)。そこで、全国各地の焼却施設で使用された耐火物を補修工事の際に採取し、耐火物内の放射性セシウムの濃度分布を測定しました。その結果の一例を図1に示します。
図1の結果から、耐火物表層が最も濃度が高く、深くなるにつれて濃度が低くなっていることが分かります。耐火物表層から15cm深い位置でも放射性セシウムが検出されていることから、放射性セシウムを含む廃棄物を処理することによって、耐火物全体(耐火物厚さは通常23cm)に放射性セシウムが浸透している可能性が考えられます。
また、耐火物は焼却施設の様々な場所(主燃焼部、後燃焼部、ガス冷部など)で使用されていますので、使用場所によっても蓄積状況が違う可能性があります。そこで、同じ焼却施設内で使用箇所の異なる耐火物を採取し、同様に放射性セシウムの濃度分布を測定しました。その結果の一例を図2に示します。
これより、使用箇所によって放射性セシウムの蓄積傾向が異なることが分かります。特に使用箇所の温度が低いと放射性セシウム濃度が高い傾向が見られます。放射性セシウムがCsClであるとすると、温度が低くなるにつれ凝縮すると考えられ、温度の低い方が固体中に含まれる放射性Csの濃度が高くなると予想され、特に表層部で濃度差が見られたと思われます。
焼却灰への濃縮などとは異なり、施設内における放射性セシウムの蓄積は余り注目はされていませんが、耐火物を最終的には廃棄物として処理されるため、放射性セシウムの蓄積が確認された今回の調査結果からも決して無視はできないことが分かると思います。
放射性セシウムに汚染された廃棄物の焼却処理は今後も続いていくため、施設の維持管理や点検補修時における作業員の安全性確保のためには、施設内における放射性セシウムの蓄積挙動の解明が必要不可欠です。今後は、今回紹介した実態調査を継続して行うとともに、焼却施設の解体撤去時の適正な処理方法の確立に取り組み予定です。
- 水原詞治、川本克也(2013) 焼却施設における耐火物への放射性物質等蓄積の実態調査、第34回全国都市清掃研究・事例発表会講演論文集、pp289-291