草木やプラスチックなどが燃えるときに出る煙は灰色や黒色をしています。この煙の色の正体は、粒子状物質を含むばいじんです。ばいじんとは、いわゆる「すす」のことで、漢字では「煤塵」と書きます。煤塵には、発がん性を持つ有害物質が混ざっていたり、肺の奥深くまで入って呼吸系に悪影響を与える2.5μm以下の小さな粒子状物質(PM2.5)が含まれていたりするなど、それ自体が健康に良くありません。さらに、燃やすものに窒素や硫黄が混ざっていれば、毒性が強く酸性雨の原因になる窒素酸化物や硫黄酸化物が出来てしまいますし、重金属と塩素が混ざっていれば、有害性が明らかなダイオキシン類が出来てしまうこともあります1)。
日本では、①煤塵等による呼吸器疾患の増加、視界の悪化が懸念されるため、②ダイオキシン類などの有害化学物質の発生・拡散・汚染を制御することが不可能なため、③飛び火による延焼の危険性が増大するため、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃掃法)により、廃棄物の野焼きは原則禁止されています。しかし、アジアやアフリカの開発途上地域では、使用済み電線を集めて野焼きを行い、燃え殻から銅線を取り出し、これを売って得たお金で生計を立てる人々がいます。私たちの研究グループが行ったベトナム北部にあるE-wasteのリサイクル現場の調査でも、使用済み電線の野焼きを行う人々が見受けられました。作業者の肌や衣服には、 煤塵が付着して黒ずんでいる様子が確認されました。電子基板や電線を無理やり燃やした実験では、はんだの鉛や銅線の銅などの重金属とともに、燃えにくくするための加工に使われていた臭素系難燃剤(2006年12月4日号「難燃剤」参照)や電線の被覆に使われていた塩化ビニル樹脂が元となって出来る塩素化ダイオキシン類や臭素化ダイオキシン類が混ざり合った有毒な煙が発生することが明らかになっています2)。口元にタオルを当てたり、マスクをつけたりしていましたが、とても簡易な防護方法なため、重金属やダイオキシン類が混ざり合った有毒な煙を毎日のように吸い込んでしまっているかもしれません。 健康被害を避けるためには、作業者は極力風上に立ち、防塵マスクをして、有毒な煙の吸引を防ぐこと、作業後あるいは野焼き場所に近づいた後は、うがいや石鹸等による手洗いなどを励行することなどの対策が考えられます。その一方で、アジアやアフリカの開発途上地域では、廃棄物の野焼きの禁止を普及する取組が重要になってきているのだと思います。
- 水谷幸夫. 燃焼工学(第3版). 森北出版株式会社 2002.
- Gullett, B.K., Linak, W.P., Touati, A., Wasson, S.J., Gatica, S., King, C.J. Characterization of air emissions and residual ash from open burning of electronic wastes during simulated rudimentary recycling operations. J. Mater. Cycles Waste 2007, 9, 69-79.