バイオ・エコエンジニアリング研究施設は、霞ヶ浦湖畔にある水環境保全再生研究ステーション内に位置し、国内外の水環境の保全・再生と廃棄物・資源循環問題を解決するための国際的研究活動拠点として、2002年度に整備されました。毎日約100m3の実生活排水を美浦村農業集落排水処理施設から約2kmのパイプラインにより搬送し、各種研究開発評価に利用しています。研究対象とする地域の条件や季節に応じて排水濃度、水量、温度を制御できる恒温試験室や屋外実験フィールドがあり、省エネ・低炭素、高度処理、資源循環、途上国適合型システム等をキーワードに生物処理工学としての浄化槽や生態工学としての土壌・水生植物等人工湿地システムを活用した浄化技術等の開発・評価を実施しています。地方公設試験研究機関、公益法人、NPO法人、民間企業、大学、海外研究機関等との共同研究を実施するとともに、アジア地域を含む世界各国との共同研究、現場技術研修等にも活用されています。
現在、バイオ・エコエンジニアリング研究施設において行っている主な研究テーマは、①生活系液状廃棄物の適正処理と温室効果ガス削減技術システムの構築、②地域環境再生のための総合的環境修復・循環技術システムの構築、③アジア地域に適した分散型有機性廃棄物・排水処理技術の開発等であり、以下にそれぞれの研究テーマの内容をまとめました。
し尿、生活雑排水、生ごみ、汚泥等の生活系液状廃棄物の主として家庭における生ごみディスポーザ、節水機器、浄化槽等を対象に適正処理と省エネ・低炭素化システムの構築を図っており、実測調査により近年の技術開発を反映した浄化槽等の最先端の操作条件が明らかになりつつあります。
国内外の分散型地域における環境保全・修復の基盤となる低炭素・資源循環高度化システム技術の開発・実証・評価等に関する研究を行っています。閉鎖性水域の環境修復に貢献する沈水・水耕植物に着目し、生態工学を基盤とした緩衝帯型(湖岸帯、岸辺等)水環境修復技術の検証を実施し、水生植物(沈水植物・水耕植物)と水生動物の共存が高度な浄化効果を得る因子となることを明らかにしてきています。
し尿や生活排水、生ごみ、植物残渣等の液状廃棄物の処理においては、環境低負荷・資源循環型の環境改善技術システムの開発研究を行っています。すなわち、アジア地域を中心とした途上国に適合した液状廃棄物の処理システムを開発するため、各国と緊密なネットワークを構築し、環境政策の動向調査、地域特性の比較解析・評価等を実施中です。また、農村・郊外地域における有機性廃棄物の適正処理・資源化技術として、中国等で採用が進んでいる低コスト家庭用バイオガス化技術に着目し、中国における同技術の普及状況、実施例を調査し、問題点の洗い出しと解決を行いながら、同技術のアジアにおける研究体制構築しつつあります。
また、中国における新農村環境改善の中核になる適正な高度処理浄化槽の普及整備において必要とされる国際標準の性能評価システム構築のために、バイオ・エコエンジニアリング研究施設の性能評価のノウハウを生かして中国環境科学研究院等の研究機関および企業と連携して取り組み始めています。また、生態工学技法等から派生するバイオマス残渣・汚泥等の堆肥化等の有効な資源化循環技法に対して取り組みを開始しています。
今後、引き続き、アジア地域を中心とした国際的な共同研究への展開を目指して、低炭素・省エネの分散型排水処理技術システム開発、未利用バイオマス(汚泥、家畜糞尿、藻類、水生植物残渣等)の有効利用、微生物電気分解等の新規なエネルギー生産技術開発、流入汚濁河川等面源負荷対策のための人工湿地等水生植物・エコトーン(陸域と水域の境界になる水際)を活用した環境修復・直接浄化技術の開発・評価を進める予定です。同時に、流域保全対策、生物多様性等と密接に関係する水、生物、廃棄物等の多岐にわたる研究分野や地方公設試験研究機関、外部研究者等と有機的に連携して推進します。国内の課題解決は当然のことながら、大きなアジア全体を包み込む地域特性に適した技術開発と研究強化を図っていく必要があります。
<参考>
- バイオ・エコエンジニアリング研究施設<http://www.nies.go.jp/cycle/bioeco/index.html>