循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 社会のうごき
2011年2月7日号

資源貿易と資源管理

中島謙一

 つくばに住んでいるKさんとMさんのある日の買い物の風景です。

Kさん: 『今日の夕食は、鮭のバター焼きとブロッコリーにしよう。』
Mさん: 『鮭は、ノルウェー産と北海道産があるよ、あと、ブロッコリーは、アメリカ産と茨城産があるよ。』
Kさん: 『鮭は、ノルウェー産の方が、脂がのってそうだね。ブロッコリーは、茨城産の方が高いけど新鮮そうだし美味しそうだね。』

 このひとこまは、夕食前のスーパーなどでは、ごくごく当たり前のやりとりだと思います。最近では、産地などの他に、生産者である農家の方の名前などが記載されているものもあれば、インターネットなどを通じて、生産や流通の段階を通じた"もの"の移動を把握できる仕組みなどが導入されている商品もあります。こうした商品の流通・生産に関する情報を把握できる状態を、『トレーサビリティ=trace(追跡)+ ability(できること)』がある、といいます。


環環ナビゲーター:たけ ところで、最近、磁石などの原料(ネオジム、ジスプロシウムなど)や研磨剤などの原料(セリウム)として使われている希土類(レアアース)の供給構造のぜい弱性が話題になると共に、資源確保を考える上での産出国との関係が話題になりました。皆さんは、日々の生活で使っている製品にどんな原料が使われているか知っていますか? そして、その原料は、どこの国からきているか知っていますか? 今回、お話したいのは、『資源はどこからくるのだろう?』という話です。

 ガソリンや灯油などの原料となる石油は、サウジアラビアなどの中東地域が主要な産出国である事はご存知かと思います。では、身近な工業製品として、携帯電話はどうでしょう? 携帯電話には、石油製品を原料とするプラスチックの他、電気を通す為に基板に使われている銅、ネジや補強部品としての鉄などの他に、話題のレアメタルも含まれています(2009年6月8日号「都市鉱山と金属資源のリサイクル」参照)。携帯電話に使われているレアメタルの例としては、バイブレーターの小型モータに使われる希土類や同じくバイブレーターの錘に使われるタングステンなどがあります。銅の原料である銅鉱石は、チリが主要な産出国です。また、鉄の原料である鉄鉱石は、オーストラリアやブラジルが主要な産出国です。前述の希土類やタングステンは中国が主要な産出国です。私達が住む日本では、リサイクルにより部分的に賄っている資源はあるものの、エネルギー資源・鉱物資源の大部分を海外からの輸入に依存しているのが現状です。また、地質学的・技術的な要因などから資源の産出国が限られているのが現状です。

 資源の管理、供給、需要は、私達の生活・経済活動に大きな影響を与える問題です。現在、顕在化した希土類問題を発端に、日本は、資源管理のあり方を考える岐路に立っているように思います。この問題は、希土類を含めたレアメタルに限定される問題ではありません。鉄、銅、鉛などの汎用金属も含めて、資源管理のあり方を考える必要があるように思います(今回のお話で特記した金属に限った問題ではありません。)

 もちろん、資源問題は複雑な問題であり、地質学的な資源の偏在性の他、採掘して製品にする技術の偏在性、コスト、更には政治的な要素を含む問題で、私たち一般消費者にとっては、関係が無い問題のように思うかもしれません。もちろん、国として、資源管理のあり方を考える事は重要なのですが、一方で、私たち1人1人が、製品を使っている事も、そして資源を必要としている事も事実なのです。まずは、消費者として現状を知ること、その上で、どのように生活すれば資源を有効かつ安定して活用できるのか考えていく事も重要ではないかと思います。

 最後に、資源管理のあり方を考える為の学問の1つを示すと共に、当研究所における活動を紹介させて頂きます。私たちの経済活動・産業と環境問題との関わりを考える『産業エコロジー』という学問があります。この学問分野では、生産活動や経済活動に伴って、どんな物質がどの程度の量、どんな用途で使われているのかと言った情報を定量的に得る為の手法として、物質フロー分析(MFA: Material flow analysis)という手法が用いられています。当研究センターにおいても、資源性・有害性、国際資源循環、サプライチェーンをキーワードにして、物質フローに関する研究を行っています。合わせてご参照頂ければと思います(2009年6月8日号「都市鉱山と金属資源のリサイクル」、2007年2月5日号「コクサイシゲンジュンカン?」、2007年10月15日号「私たちの消費と廃棄物とのつながりを追う」参照)。

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