循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 社会のうごき
2007年6月18日号

化学物質を管理するということ−欧州の新たな化学物質管理法−

野馬幸生

 化学物質は、私たちが生活していく上でなくてはならないものですが、その一方で安全性に関する社会問題を生じてきたこともまた事実です。安全で安心できる社会をつくるためには、化学物質のリスクをきちんと理解し、 管理または削減する努力をすることが重要です。循環型社会を構築するにあたっても、身の回りの使用済み製品を資源として再利用する際には、それらに含まれる化学物質のリスクを評価する必要があります。 このことについては、以前、「リサイクルと化学物質について考えよう」というタイトルでお伝えしました。

 化学物質が私たちの生活と切っても切り離せないものである以上、いかにして化学物質と上手に付き合っていくかを考える必要があります。そのため、各国・各地域に化学物質を管理するための制度があります。 みなさんは日本の化学物質管理の柱となる法律をご存知でしょうか? 正式名称を「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」といい、通常は「化審法(かしんほう)」という略称で呼ばれるものです。 PCB(ポリ塩素化ビフェニル)など有害な化学物質による環境汚染を防止することを目的に1973年に制定されたもので、世界に先駆けて化学物質規制の枠組みを示した法律です。

 化審法の内容をひとことで説明すると、「新たに製造・輸入される化学物質(新規化学物質)について環境や生物への影響を事前に審査し、必要に応じて規制するための制度」ということになります。 新規化学物質の安全性評価は製造・輸入業者が実施し、国はその情報を基に1)環境中での分解性、2)生物への蓄積性、3)ヒトや動植物への毒性、の3項目を審査・判定します。法制定前に"既に"使用されていた化学物質(既存化学物質、数万物質)は事前審査の対象外ですが、 難分解性・高蓄積性・毒性が明らかになれば規制の対象となります。このため、安全性の点検を行政機関が日夜行っているのですが、既存化学物質の数は新規化学物質(数百物質/年)よりはるかに多いためすべての物質に対応するのは困難なのが現状です。

 世界に目を転じると、欧州やアメリカ、カナダ、オーストラリアなどにもそれぞれ化学物質を管理するしくみがあります。細かな違いはあるものの、諸外国の制度そのものは日本の化審法と同様に新規化学物質の届出・審査・規制を目的とするものなので、 既存化学物質への対策が重要課題となっています。

 そんな中、今年6月、国際的な化学物質管理制度に大きな動きがありました。新聞やテレビの報道で気がついた方もいらっしゃるかもしれません。欧州で新たな化学物質管理法がスタートしたのです。 法律の正式名称「Registration, Evaluation and Authorisation of Chemicals」の頭文字をとって、略称「REACH(リーチ)」とよばれるものです。名称のとおり、 化学物質(Chemicals)の総合的な登録(Registration)・評価(Evaluation)・認可(Authorisation)・制限(Regulation)に関する新しい制度で、欧州以外にも大きな影響を与えています。

 いったいREACHという制度にはどのような特徴があるのでしょうか。まず、対象とする化学物質の範囲が大きく変わった点があげられます。欧州の化学物質の管理に関する法令を一本化し、 新規化学物質のみならず市場に出回る既存化学物質の安全性評価についてもそれを製造・輸入する企業に義務づけた点が画期的です。つまり、既存化学物質と新規化学物質の区別をなくし、ほぼ同じ管理制度を導入したのです。 これがREACHの最大の特徴で、欧州で販売されるほぼ全ての化学物質について安全性評価を義務付け、その情報を登録させる制度なのです。しかも、REACHは、成形品(製品)に含まれる化学物質も対象としました。つまり、産業界は、 成形品の中に含まれる化学物質が使用中に安全であることを示す必要があります。この制度により、安全性データが登録されていない化学物質あるいはそれらを含む成形品は、欧州の市場には出せなくなります。欧州内の規制ではありますが、 日本を含め、欧州に材料や製品を輸出している海外の企業は、その規制に対応することが不可欠となったため、各方面で大きな関心を呼んでいるのです。

 化審法は2009年に見直されることになっています。国際的な化学物質管理をめぐる新たな動きの中で、日本の化学物質管理政策はどういう方向性を示すのか注目されています。

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