2007年4月2日号
高齢化社会とごみ問題−家庭からの医療系ごみが急増?−大迫政浩
高齢化がもたらすごみ問題への影響今回は、日本社会の「高齢化」をテーマに取り上げてみます。国立社会保障・人口問題研究所の予測では、総人口に占める高齢人口(65歳以上)の比率が、現在の20.7%(2006年9月)から2025年には30%程度になると予想しています。 「3人に1人は高齢者」という時代が近い未来にやってくるのです。高齢化が進むと社会の中でいろいろな問題が起こってきます。年金や医療保険などの制度の維持が最も大きな難題と言えるでしょう。 では、ごみ問題とはどのような関係があるでしょうか。実は高齢化が進むとごみ処理にも様々な対応が必要になってくることが考えられます。まず考えられるのが、在宅医療や在宅介護に伴う特殊なごみの排出です。医療系ごみの中には血液の付着した注射針など、 それらを通じた病気の感染に注意が必要な有害ごみも含まれますので、しっかりした対応策を考えておかねばなりません。その他にも、例えば高層のマンションなどでは、ごみの集積場所までごみ袋を運んでいくこと自身が、高齢者にとって重労働となる場合があります。 収集員が玄関前まで足を運ぶことも必要になるかもしれませんし、住宅の構造にもごみが出しやすい工夫が必要になるかもしれません。各自治体ではごみの排出に対して手数料をとる有料化を進めていますが、一般的に収入の少ない高齢者世帯に対しては、減免措置として無料でごみ袋を支給するなどの配慮も必要になるでしょう。 チラシなどによる分別品目や収集日の情報提供にも、高齢者にわかりやすい工夫が求められます。このように、高齢化が進むとごみの問題にも様々な影響が出てくることが想像できます。 在宅医療拡大に伴う家庭からの医療系ごみの急増実はすでに上述のような問題の兆候は現れてきています。最近、在宅医療の拡大に伴って、家庭から出る注射針や輸液・透析用のビニールバッグ類などの医療ごみが急増しており、対応を検討するために環境省が実態調査を実施することがマスコミ等で報じられました。 医療系廃棄物の中でも、血液の付着した注射針(注射器や輸液(点滴)器具などに装着されているもの)や脱脂綿・ガーゼなどには、感染症患者の血液が付着している可能性があるため、法律では「感染性廃棄物」として「特別管理廃棄物」に指定されています。厳密な管理の下に安全に処理されなければならないごみなのです。 在宅医療行為では、自己での注射や点滴など医療機関と同様の措置が行われますので、当然のことながら同様の感染性をもつ廃棄物が家庭からも排出される可能性が高くなります。右図は、在宅医療行為の7割を占める「在宅自己注射」の実施件数の推移を示したものですが、この10年間で2.5倍以上に増加していることが分かります。 それに伴って、家庭からの注射針等の排出も急増し、近い将来大きな問題になる可能性があります。 家庭ごみは市町村に処理の責任があるため、家庭からの医療系ごみも自治体が何らかの対応をとることが求められますが、実態としては、収集時の作業員への針刺し事故など感染への心配から回収していない自治体もあり、患者や家族が処理に困っている例も多くあるようです。環境省の調査によれば、 注射針については医療機関等により回収されている場合が多く、調査対象とした市町村のうち容器に入れる等の適切な措置を前提に受け入れているのは7.8%にとどまっていました。また、注射針以外への対応は様々であると報告されています。在宅医療廃棄物への対応のルールがこのように曖昧なままだと、 一般のごみに感染性廃棄物が混入したりして収集時に事故等が起こるなど、今後大きな問題になりかねません。排出する側の私たち一般市民と自治体、医療関係者の間で、今後の高齢化社会への対処のために、それぞれの責任と役割を早急に明確にしていくことが必要になっています。 <参考資料> |
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