2007年4月2日号
マニフェストとアカウンタビリティ森口祐一
4月は新しい年度のはじまりです。学生の皆さんにとっては進級・進学の季節、私たちにとっては仕事の一つの区切りの季節です。人事異動、すなわち、新しい道を歩むためにセンターを去っていく方を送り出したり、新しいメンバーを迎えたりする季節でもあります。 「マニフェスト」という言葉が最近よく聞かれるようになったのは、知事・市長選挙や国政選挙において、候補者個人や政党がこの語を用いて公約を文書で示すことが多くなったからでしょう。政策、宣言書、声明書といった意味があり、manifestoと綴ります。英語ではマニフェストウと発音するのが正しいようです。 当センターのような研究所の一部門の責任者が、その使命や方針を明らかにするものとして、ポリシー・ステートメントと呼ばれる文書を作成する場合があります。これも一種の公約です。これまで国立環境研究所では、部門ごとのポリシー・ステートメントの作成・公表を行ってきていませんが、現在、19年度のポリシー・ステートメントを作成する準備が進んでいます。機会があれば、後日ご紹介します。 一方、廃棄物の分野では、選挙の公約で使われるマニフェストが有名になるよりも前から、同じマニフェストという用語を使ってきました。こちらはmanifestと綴りが微妙に異なり、一般には、積荷の目録や送り状を意味します。廃棄物の排出者がその処理を他者に委ねるときに、適切に引き渡されて処理されたことを確認するための伝票として使われます。 マニフェストには、廃棄物の種類、数量、運搬業者名、処分業者名などが記入され、廃棄物とともに伝票を渡しながら、処理の流れを確認するしくみです。複写式伝票のほか、電子マニフェストといって、コンピュータと通信回線を利用した情報管理も行われています。 おもに産業廃棄物の処理の流れの追跡に使われてきたマニフェストですが、一般の消費者にも関係する制度があります。2月5日号の記事でとりあげた家電リサイクル法において、リサイクル料金を支払って販売店に引き取ってもらった廃家電製品が、リサイクル工場で間違いなくリサイクルされたかどうかを確かめるためにも管理票が使われています。消費者は、インターネット上での照会などにより、 自分が引き渡した製品がどこへ引き取られたかを追跡することができます。残念ながらこのことは、十分には知られていないようです。 もう一つの用語、アカウンタビリティは「説明責任」と訳されます。組織や個人の行動が正当なものであることを対外的に責任をもって説明することを意味します。たとえば、公的研究機関の調査研究活動の資金の大半は税金で賄われていますから、私たちはその活動の成果が社会にきちんと役立っていることを説明していく責任が求められます。このアカウンタビリティという言葉には、 会計・経理を意味するアカウンティング(accounting)と責任を意味するレスポンシビリティ(responsibility)の意味が含まれています。 廃棄物の処理やリサイクルをとらえるための基礎的な考え方として、「ものの流れ(マテリアルフロー)」について創刊号のご挨拶で触れましたが、ものの流れの把握に活用される物質フロー会計という手法でも、アカウンティング(accounting)という用語が使われます。2月19日号で廃家電製品の「見えないフロー」の問題について紹介しましたが、これは製品の捨てられた後の行き先が、数えられない、 誰も責任をもって説明できない(アカウンタブルではない)状態にあることを意味します。経理において、使途不明金が問題視されるように、ものの流れにおいても、「使途不明・行方不明」になることは望ましくないことなのです。 管理票という意味でのマニフェストは、ものの流れにおける責任の所在を明らかにすることに役立ちます。公約において使われるマニフェストは、個人や団体の責任ある活動を説明するために用いられます。マニフェストとアカウンタビリティは、どちらも物事を「うやむやにしない」ための大切な言葉といえるでしょう。 |
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