循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2007年1月9日号

循環型社会と科学技術

川本克也

 最近、中学・高校の生徒などの理科離れということがよく言われます。科学技術の発達は私たちの生活をますます便利にしています。ところが、反面、理科に興味をもつ子どもが少なくなっているようなのです。なぜでしょう。いろいろな理由があるでしょうが、一つには製品のもつ機能などについてなぜそうなるのか、 というからくりが見えにくくなってしまったことがあるかもしれません。製品がブラックボックス化していて、いきおい理解のむずかしい途中のものごとは飛ばしてしまい、結果が楽しめて使えればそれでよい、ということになるのでしょう。このような問題の是非はともかくとして、科学の目を持つと、 途中がどうなっているか、何が起こっているのかがおもしろく感じられるようになると思います。

 生活に身近な廃棄物が処理されていく過程も、この科学的な視点に基づくと興味深いことがたくさんあります。例えば、わが国では家庭生活から出されるごみの約8割が焼却されますが、物を燃やすということは、物質が高温で酸素と化合することにより炭素は二酸化炭素に、水素は水(水蒸気)に変化する化学現象です。 そして、現実に大量のごみを相手にして滞ることなくこれを処理するために、大型の機械装置を用いて、焼却炉を構成する火格子(ひごうし)のかたちや動かし方、空気の吹き込み方法、炉の内部の温度などのコントロール、というようにいろいろと工夫します。これが技術であり工学的な応用です。

 循環型社会をつくるには社会の仕組みづくり、人々の意識改革、政策的なビジョンづくりと並んで、廃棄物あるいは廃棄物になる前の製品などを扱うさまざまな技術が必要です。

 私たちの研究センターでは、中核となる研究プロジェクトの1つとして「廃棄物系バイオマスのWin-Win型資源循環技術の開発」に取り組んでいます。その内容をかみ砕いて紹介しましょう。全体の目標に掲げたことは、廃棄物、中でもバイオマスに相当する廃棄物から有用なもの(物質)を回収または作り出して、 エネルギー源となるものに転換することでリサイクルを進め、さらにこのことを通じて地球温暖化の防止や資源の安定供給などにも寄与することです。Win-Win(双方にとって勝ち)型と名づけているのはこのためです。バイオマスとは、植物などのように太陽のエネルギーと空気中の二酸化炭素(CO2)を摂取することで成育した物体(マス)で、 廃棄物ですと、木材、紙ごみ、生ごみなどが相当します。これらが燃焼して排出されるCO2は、地球温暖化を引き起こすものとはみなされませんので、循環的利用が可能な資源として注目されています。

 この研究プロジェクトは大きく3つの項目から成り立っています。それぞれについて簡単に説明しましょう。


エネルギー循環利用技術システム

 廃棄物系バイオマスの中でも廃木材や紙ごみなどの比較的乾燥した(水分の少ない)ごみには、熱を利用した技術的手段が有効です。研究では、熱分解ガス化、引き続く改質という変換工程に触媒(それ自体は変化しないけれども反応速度などを向上させる材料)を活用して、低温で効率のよい仕組みを開発しようとしています。作り出されるのは水素ガスと一酸化炭素そしていくぶんかのメタンガスで、 いずれもエネルギーとして利用できる可能性をもったガス成分です。燃料電池やその他の発電システム、液体燃料転換などで活用します。

 一方、生ごみや畜産廃棄物などの水分を多く含むバイオマスについては、微生物反応を応用した方法である水素とメタンの複合発酵システムを始め、各種の有用物を効率よく回収するための最適な技術の開発を行っています。微生物の応用は、環境にやさしく、またいろいろな面で大きな可能性を秘めています。

マテリアル(物質)回収利用技術システム

 貴重な資源として価値の高い物質を回収し利用します。一つは、生ごみを対象に微生物反応により乳酸という物質を生成する技術、そして回収した乳酸からは生分解性プラスチックを製造し、残った残さは養鶏などの飼料に利用する仕組みの研究開発です。これは、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)などの元素のカスケード(高次から低次への多段階)利用型ゼロエミッションシステムと呼ぶことができます。実際に、鶏の飼養実験について、地域でのモデル的な実証試験を行います。

 上で触れたリン元素は、排水や汚泥の中にもかなり含まれていますが、資源面で枯渇の可能性もあることから回収技術を開発しています。吸着脱リン法と呼ばれる方法などについて技術上の高度化、地域での回収システムとして最適化する研究を行っています。

動脈-静脈プロセス間連携/一体化資源循環システム

 鉄鋼、セメント製造、火力発電などの基幹的な動脈産業プロセスに対し、言わば静脈的な位置づけにある廃棄物系バイオマスを化石燃料の代替物として用いる動脈/静脈連携システムを組み立て、実証まで行うことを目指しています。上で述べた2つの技術・システム開発の成果なども取り込んで、最終的にはモデル地域におけるシステム設計や実証試験を行い、事業展開の可能性の評価までを行いたいと考えています。

 これらの研究では、さまざまな資料の調査を行ったり実験にもとづいてデータを蓄積します。その過程で新たな事実の発見などに胸をはずませ、そして工学的な効率の向上に知恵を絞り、さらに今後の望ましい姿を描きます。

 さて、現実の社会の実態はどうでしょうか。

 一つの例ですが、廃棄物処理施設を事業者が設置しようとする場合、法令により地方自治体は、設置が生活環境に及ぼす影響などについて専門的な見地から審議する場を設けることとされています。そのようないわゆる現場に近い場所で私が感じることは、産業廃棄物は依然として大量に排出され、また処理施設では従来の一方向型の処理・処分が行われる例が多いことです。これは一面、現実でもあります。 循環型社会そして持続可能な社会は遠いのでしょうか。先ほど指摘した私の経験は狭い範囲での観察によるものです。しかし、大枠の流れは、少なくとも最近の法令などによってつけられています。社会のそして個々人の認識や意識も、ゆっくりとではありますが変わりつつあると思います。

 科学技術のもたらす夢とでも言えるものが、かつてより希薄になっているかもしれません。このことは、最初に触れた技術のブラックボックス化もその一因となって、高度に発達した社会における宿命なのかもしれません。しかし、この地球上で、100億に近づこうという人口がしかも限られた地域に住み持続的に豊かな生活を送りたいと願うならば、科学技術の進展と無縁でいるわけにはいかないでしょう。

 生活に密着した廃棄物、いまやだれもが関心を抱く環境の課題に、科学技術という手立てを用いて取り組み、夢のある社会を築くことができればと思っています。この記事を読んだ皆さんの多くが、関心をもってもらえれば幸いです。

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