循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2006年11月20日号

近未来の循環型社会のビジョンを一緒に考えましょう!

大迫政浩

 将来はこんな職業につきたい、こんな家を持ちたい、私達は個人として、そして家族として、将来の目標をもって日々を生きています。明確な目標をもっているからこそ、生きていくことに活力ももてるし、頑張ることができます。 このことは、私達の社会にもいえることです。社会全体として将来の目標をもち、どのようにしたらそれを実現できるかを皆で話し合い、協力し、努力していくことが必要です。

 今年度から開始された研究プロジェクト「近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価」は、資源の循環利用や廃棄物抑制の観点から、 私達の社会全体で共有できる将来の「循環型社会」の目標とそれをどのように実現するかの「道筋」を提案しようとするものです。将来の目標といっても、50年や100年先の夢物語を描くわけではなく、10年から20年先の比較的近い未来に実現できる目標を考えています。 そこに至る「道筋」についても、どのような技術や仕組みが必要か、どのような社会的制度をつくって進めていくべきか、などについて、具体的に検討していくことにしています。

 少し例を示しながら説明したいと思います。まず目標の設定ですが、現在国レベルでは、循環型社会形成推進基本計画という計画の中で、天然資源を出来るだけ節約し環境への負荷を小さくするために、資源生産性、循環利用率、最終処分量という三つの 指標に対して2010年度の定量的な目標値が設定されています(詳しくは環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/recycle/circul/keikaku/index.html)を調べてみて下さい)。私たちが進める研究プロジェクトでは、新たな計画の目標にも 繋がるような10〜20年後の循環型社会のビジョンを描き提案したいと思っています。ビジョンを描くというのは、皆さんが「どのような循環型社会をつくりたいか」ということです。例えば、新しい技術を駆使し生活水準を落とさずに高度なリサイクルシステムが実現した社会、 そのような社会は一つの理想かもしれませんが、完全な技術社会を築くことはなかなか難しいでしょう。そうであれば、少し不便でも慎ましくゆとりのある生活をして新たに資源をあまり使わない地球に優しいライフスタイルが実現された 社会を目指すべきとの選択肢も出てきます。もちろん、両者をうまくミックスしてより良い方向を見つけていくやり方もあるでしょう。このように、私たちが目指す社会のビジョンを描くとともに、その社会にふさわしい具体的な指標や目標値についても今後検討していきます。

 また、社会のビジョンは自ずとそこに至る道筋も示しています。ここでは、上述した二通りの社会のビジョンに繋がる具体的な道筋の例で説明したいと思います。

 皆さんは「溶融技術」という日本の先進技術を知っていますか。皆さんの生活から排出されたごみを千数百度の高温でマグマのように溶かした後にを冷やしてガラス状の人工砂を製造し、道路やコンクリートをつくるための土木材料としてリサイクルする技術です。 ダイオキシンなどの有害物質の発生も抑制できます。このような技術が将来もっと普及すれば、ほとんどのごみがリサイクルされて最終処分(埋立処分)する量を大幅に減らすことができるでしょう。高度な技術によるリサイクル社会を実現する有力手段といえます。 しかし、この技術は他の技術に比較してコストが高く、エネルギーを多く消費することが難点です。最終処分量の削減や有害物質対策には威力を発揮発揮しますが、地球温暖化や化石資源等の消費の面からは少なからず問題があります。このように高度な技術であっても万能ではなく、長所と短所があるわけです。

 そうであれば、技術だけに頼らず私たちのライフスタイルを地球に優しいものに変えていく発想もあるのではないでしょうか。ごみは私達が様々な商品を消費することによって結果的に出てくるわけですから、私達の工夫で出来るだけごみを出さないように心がけることができます。 無駄に余計なものを購入しないようにしたり、すぐに捨てずに出来るだけ長く使ったり、スーパーのレジ袋の代わりに自分の「マイバッグ」を使ったり、過剰な包装はなるべく断ったり、いろいろなやり方があります。ただ、自分たちの自覚だけですべての人が同じように地球に優しい行動ができるわけではありませんので、 強制的なルールを私たちの社会としてつくっていくことも必要になるでしょう。そのひとつに、例えばごみの「有料化」という方法があります。私たちが出したごみを市区町村(自治体)に処理してもらう際に、手数料を払うルールを課すのです。従来は私たちが納めた税金でごみ処理にかかる費用が賄われていましたが、 こうしたやり方ではごみ処理にコストがかかっていることを私たちは実感としてなかなか認識することができません。ごみを出しても自治体がタダで集めて持っていってくれていると勘違いしている人も多いと思います。そこで最近はほとんどの自治体で有料化制度を導入しています。燃えるごみの場合は、自治体が指定するごみ袋を有料で 市民に購入してもらうやり方が一般的です。こうすることで、自分たちが出したごみの量に応じて公平にごみ処理手数料を徴収することができますし、私たち市民はお金を節約しようとして出来るだけごみを出さないように工夫するきっかけになるでしょう。しかし今は、実際にかかる費用の一部(例えば大きなごみ袋いっぱいのごみを処理する には実際は数百円のお金がかかりますが、ごみ袋1枚は10円もしない値段で購入されている場合もあります)しか徴収していませんので、 それほどごみを減らそうという気にならないかもしれません。ですから、社会的ルールとして将来一層の有料化を進め、税金ではなく直接的なコスト負担の割合をもっと高くして、ごみを減らそうという意識を高めていくような方法も一つの検討課題です。

 この研究プロジェクトでは、その他にもいろいろな技術的、社会経済的な対応の仕方について検討していきたいと考えています。検討の過程では、様々な立場の多くの方々へ情報を提供し、また意見やアドバイスを頂きながら、一緒に議論していければと考えています。 本マガジンの提供サイトにおいても、将来の循環型社会像等を議論し合う場を設けたいと考えておりますので、読者の方からも、「こういう循環型社会にすべき、そのためにこのようなやり方があるのではないか」、など、ご意見やご提案をお待ちしています。

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