2010年7月5日号
バイオディーゼル燃料の高速合成倉持秀敏
皆さんのお家では、調理した後の天ぷら油(廃食用油)をどう処理していますか? 廃食用油を処理剤で固めたり、新聞に吸わせた後に可燃ごみと一緒に捨てていませんか? 廃食用油は脂肪酸トリグリセリド(TG)という化学物質の混合物であり、図1のように、触媒(反応促進剤)を用いてメタノールとエステル交換反応させると、脂肪酸メチルエステル(Fatty Acid Methyl Ester: FAME)とグリセリンという二つの物質が得られます。 FAMEはバイオディーゼル燃料(BDF)と呼ばれ、バスやごみ収集車などの自動車の軽油代替燃料として利用されているのはご存知でしょうか? BDFへのリサイクルは、廃棄物の有効利用という点だけでなく、使用時に化石燃料由来の二酸化炭素の排出量が少ないという点から地球温暖化対策としても期待されています(2008年10月6日号「バイオ燃料による食糧問題と解決策としての廃棄物の有効利用」参照)。 BDFは、一般的にアルカリ触媒法という方法で合成されています。図1のように、触媒である水酸化カリウム(KOH)を溶解させたメタノールを廃食用油と加温しながら混合すると合成できます。 BDFを合成するには、反応性を有したメタノール分子とTG分子が衝突することが必要です。図1をみると、メタノールと廃食用油(TG)は溶け合わずに分離しています。この状態では、効率的に反応が進みません。そこで、私たちは、メタノールと廃食用油の間の界面を取り払って二つの液を一つの液としてしまえば(均一相化)、分子は自由に移動でき、分子の衝突が頻繁に起こり、反応が劇的に速く進むと考えました。今回は、この反応の高速化を試みた研究成果1)の一部を紹介します。 まず、二つの液を均一相化することが必要なので、メタノールとTGの両方に溶け易い溶媒として、液化ジメチルエーテル(DME)を選定しました。 DMEは常温1気圧においてガスですが、若干高圧(5〜6気圧程度)にすると液化します。液化DMEを用いた理由は、毒性が低いことと、反応終了後に圧力を下げてガスに戻すことで、反応溶液からDMEを容易に回収できることがあります。 液化DMEを添加してBDF合成反応を行い、BDFが生成する量を調べ、反応時間と反応収率(FAMEへ変換されたTGの量/反応へ供給されたTGの量)の関係を図2に示します。わずか10秒で供給した原料の約60%がBDFに変換されていることが明らかとなりました。また、液化DMEを添加せずに、同じ回転数で攪拌した場合の結果も比較しました。この比較により、反応溶液を一つの液とすることで、桁違いに速く反応が進むことがわかりました。 ただし、二つの液を一つの液にしてしまうという考えは、カナダの研究者がテトラヒドロフラン(THF)という有機溶媒を用いて十年以上前に実験していました2)。そこで、彼らの合成反応実験を再現し、我々の結果と比較しました。図2の比較により、液化DMEを添加した方が、THFを用いるよりも反応は速く進みました。この原因は、液化DMEを含んでいると、スムーズに均一相化が実現できるためです(すべての溶液を混ぜてから5秒で均一相化が可能)。ちなみに、THFでは均一相化に100秒かかります。この結果は、反応の高速化において、添加した溶媒による液と液の混ざり易さの違いを考慮することの重要性を示しています。 私たちの提案した方法により、反応が非常に速く進みますが、残念ながら反応時間10秒以降には、溶液に溶けなくなったグリセリンが液滴として現れ、再び二液になり、図2のように反応の進む速さも低下していきます。この対応策として、今度はメタノールがグリセリンとBDFの両方に溶けやすい溶媒であることを利用して、グリセリンが溶解できなくなる直前、つまり、反応開始後10秒後にメタノールを添加して、反応液が終始一つの液になるようにしました。その結果、反応時間3分という短時間において反応収率が96%以上という高い収率を達成することができました。反応が非常に速く進むため、反応容器を従来法よりも数十分の1程度に小さくできると考えています。 しかし、この方法は、従来法よりも大量にメタノールを利用します。メタノールを回収して無駄なく利用することを考えていますが、大量のメタノールを回収することにより、従来法よりも製造に必要なエネルギーが1.7倍に増加することがシミュレーションによって予想されています。そこで、メタノールを過剰に添加しない方法を検討し、 今では、製造エネルギーを従来法の65%まで削減できる可能性を得ています。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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