2009年10月19日号
堆積廃棄物の火災遠藤和人
皆さんも不法投棄という言葉を聞いたことがあると思います。不法投棄とは、廃棄物が山間や人里離れた目につかない場所に不法に捨てられることです。その量は、数キロから数百トンにいたるまで千差万別です。不法投棄以外にも、心無い業者が「処理・処分または再利用するまでの仮置きです」と言って、廃棄物をそのまま置きっぱなしにして、どこかに雲隠れしてしまうようなことがあります。いずれの場合でも、管理者が定かでない廃棄物がうず高く積まれていることが多いので、これらを称して、私たち研究者は堆積廃棄物と呼んでいます。新聞などの見出しでは、"ごみ山"などと呼んでいることもあります。 これら堆積廃棄物は、谷部を埋めるように堆積している場合もあれば、平地に山のように堆積している場合もあります。いずれにしろ、これらの廃棄物はその場から人の手によって移動しないと、そこにあり続ける困った廃棄物です。このような廃棄物を処理すると、1トン当たり5〜10万円程度の経費が必要になり、地域の環境保全の確保のため、堆積廃棄物の撤去に責任がある自治体にとって、かなりのお金が必要になります。自治体が使えるお金は税金であり、当然ながら限度があるので、これら堆積廃棄物が発見されたら直ぐに撤去できるというものではありません。また、廃棄物が堆積していることを発見し、自治体が処理せざるを得ないと判断すること自体にも多くの労力と費用が必要です。 そんな堆積廃棄物は、まれに発火することがあります。そのメカニズムは複雑で完全には明確にされていませんが、廃棄物が数メートル以上堆積し、その廃棄物に可燃分と有機物がバランスよく含まれていれば、発火する可能性があるといわれています。例えば、木くずなどを数メートル以上堆積させると危険です。また、家屋などを解体撤去した建設解体系の廃棄物も、可燃分と有機物を含むため、堆積させると危険といわれています。廃棄物に含まれる有機物をエサとして微生物が活動し、その活動に伴う発熱が起こります。その発熱が、廃棄物を伝わって大気中へ放熱されれば問題ないのですが、水が多く含まれていたり、空気の流れが小さかったりすると、放熱されずに、熱が堆積廃棄物の中にこもって蓄熱してしまいます。微生物反応だけであれば、60度以上の温度になることはまれなのですが、廃棄物中に含まれる脂肪分の化学的な酸化などが加わり、さらなる温度上昇がおこると、酸化が加速されて、蓄熱温度が高くなり発火するといわれています。また、油分(脂肪酸)の酸化反応や水和反応などの化学反応によって発熱がおこる場合もあります。この場合、発熱による到達温度は、微生物反応のときのように低温ではなく、また一気に温度上昇するため、これが蓄熱されれば発火にいたることになります。 以上のように発火してしまう原因の一つが、何度も出てきた"蓄熱"という現象です。熱は、温度の高いところから低いところへと移動する性質を持っていますので、熱が伝わりやすければ、蓄熱して温度が上昇することはありません。しかし、十数メートルも廃棄物が堆積していると、熱が移動して逃げるのに時間がかかったり、廃棄物自体の熱の伝わりかたが悪かったりして蓄熱してしまうのです。このような現象は経験的によく知られているため、廃棄物に限らず、粒状のものを積み上げる際には、堆積高さを5メートル以下にしなさい、などと消防機関によって規定されている地域もあります。 また、堆積廃棄物の燃え方には、2種類あります。表層火災と地中火災です。その名の通り、表層火災とは、堆積廃棄物の50cm程度までの浅いところから燃焼が開始する火災で、白煙と刺激臭がすることが多いといわれています。一方、地中火災とは、堆積廃棄物の深部から燃焼が開始する火災で、表層火災に比較して温度が高く、地中で燃焼がおこるために廃棄物の体積が急激に減少して、地表面に陥没などが発生することがあります。表層火災は消火しやすいのですが、地中火災の場合は、火元に手が届かないため、消火が困難となります。バックホーなどの重機を用いて掘削してから消火することもできますが、掘削することによって大気中の酸素が供給されて、一気に燃焼が広がる危険性もあるため、掘削しての消火も難しいのが現状です。また、地中のどこが火元であるかを特定する手法も確立されていないため、どこを掘ってよいか分からないという技術的な問題もあります。現在、我々は、これら諸問題を解決するための技術開発研究を進めています。 先にも述べましたが、温度が高いだけでは、微生物反応による温度上昇も考えられますので、火災であると断定することはできません。実際に燃えているかどうかを確認する時には、一酸化炭素(CO)濃度を測定します。地中火災の場合、酸素が十分に供給されない状況で、炎の無い無炎燃焼(燻焼ともいう)がおこっています。炭素(C)を含む物質が、酸素が不十分な状況で不完全燃焼すると一酸化炭素が発生します。この濃度を指標として判断します。微生物反応でも一酸化炭素が生ずる場合もありますが、酸素が少なくても基本的には二酸化炭素(とメタン)が生じ、一酸化炭素はそれほど高濃度にならないために、火災の判定として使用できるという訳です。 火災の消火方法としては、堆積廃棄物の火災現場に、土や砂を被せて、酸素の供給を(ほぼ)完全に遮断するという窒息消火という方法が良く用いられます。消火するまでに多少の時間が必要ですが、放水による汚濁水が発生せず、周辺河川、地下水を汚染することなく消火を実施できるので、有効な方法といえます。 処理されている廃棄物全体からみるとごく一部ではありますが、大変危険で不法な廃棄物の堆積が、現代社会の廃棄物行政や法律の不備、経済システムによって必然的に発生しているのか、それとも、実行する人々のモラルのみが原因であるのか、よく考える必要があります。我々は、堆積廃棄物火災のメカニズムや消火方法などの技術的な側面ばかりでなく、廃棄物を堆積してしまう行為そのものの根底にある社会的な背景に対しても関心をもって研究に取り組んでいます。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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