2009年2月23日号
ごみから炭作りができる?黄 仁姫
近年、地球温暖化、資源枯渇、埋立地の不足などの環境問題が社会全般に大きな影響を及ぼしています。このため、今まで焼却あるいは埋立処分されてきた廃棄物系バイオマス(2008年11月17日号「廃棄物系バイオマス」参照)についても、再生可能なカーボンニュートラルのエネルギー源として積極的に利用しようとする動きが活発になってきています。日本では、2030年までに新エネルギーの総供給量の23%を廃棄物・バイオマスから導入するといった具体的な数値目標などが示されています(総合資源エネルギー調査会需給部会:2030 年のエネルギー需給展望)。 2005年の調査資料(環境省:産業廃棄物排出・処理状況調査報告書)によると、国内廃棄物系バイオマスの年間発生量は約25,600万トンに達していると報告されています。このような廃棄物系バイオマスを資源あるいはエネルギー源として有効利用する方法にはどのようなものがあるでしょうか。その一つは生物学的転換技術です。微生物を利用し、有機物を分解・発酵させ、その過程で発生するメタン、水素、エタノールなどを回収する方法です。厨芥や食品廃棄物など比較的含水率が高く微生物が分解しやすい成分が多いものに適用されています。もう一つは熱化学的転換技術であり、ある温度条件でバイオマスを加熱・分解させ、発生する熱あるいは固相、液相、気相に生じた生成物を回収する方法です。前者に比べて含水率が低く生物分解しにくいものに適用される場合が多い技術です。このような熱化学的転換技術の中で皆さんに一番身近なものは焼却でしょう。我々が日常生活で出す燃えるごみは、地域にあるごみ焼却施設で処理されています。 実は日本は、一般廃棄物の約8割を焼却処理しており、ごみ焼却率が非常に高い国の一つです。焼却処理では、ごみに含まれている有機物を完全燃焼させるために必要な理論空気量より多い量の空気を炉内に導入し、ごみを燃やします。有機物が燃焼する時に発生する高温の燃焼熱をうまく回収すれば、ごみから電気の生産、いわゆるごみ発電ができます。焼却は空気が豊富な条件下での熱処理と言えますが、これに対して、ほとんど空気を与えずに有機物を加熱処理する方法として熱分解という技術があります(2007年1月22日号「熱分解ガス化」参照)。熱分解は低酸素あるいは無酸素条件で外部から熱を加えることによって有機物を構成している炭素同士の結合の弱い部分を切断することで、チャー(または炭化物:固相)、オイル(液相)、ガス(気相)などを生産する方法と言えます。ある意味では動植物の死体が長年地中で徐々に分解されて石炭、石油、天然ガスのような化石燃料に変換していく過程と同じような反応であり、熱分解はそのような過程をより高い温度で、また短い時間で行うと言えば理解しやすいかもしれません。熱分解反応によって得られるチャーは、見た目も炭や石炭とよく似ています(図1)。特に炭化物を回収する目的で熱分解を行う技術は炭化という名前で呼ばれています。 最近10年間、多様な廃棄物系バイオマスを炭化する研究が多くなされてきました。産業廃棄物を対象とした小規模の炭化施設をはじめ、現在では全国に6箇所の一般廃棄物を対象とした炭化施設が稼動しています。これらの炭化施設は1日当り数十トンの可燃ごみや粗大ごみを対象とし、破砕、乾燥などの前処理を行った後、ロータリーキルン式炉あるいは流動層炉を用い、約400−600℃、低酸素雰囲気で1時間ほど炭化処理を行っています(図2)。炭化処理中に発生した可燃ガスは別の燃焼室に集めて燃やし、その熱を炭化炉の熱源あるいはごみ乾燥用の熱源として使います。生成物である炭化物には鉄・アルミなどが含まれているので、粉砕・篩い(ふるい)分け・磁力選別を行い、金属を分離します。さらに、炭化物に含まれている塩素などの望ましくない成分を水で洗って除去したり、必要に応じて粉末状の炭化物を一定サイズに造粒したりする場合もあります。こうして作られた炭化物の利用方法には、炭素成分を燃料や還元剤として使う、あるいは生成する時に生じた細孔構造を活かして吸着材や活性炭などとして使う、というおよそ二つの道があります。可燃ごみや粗大ごみのようにいろいろなものが混ざっている廃棄物から得られた炭化物は、前者の観点からセメント製造施設や石炭火力発電所での代替燃料、製鉄工場の代替コークスなどに使われています(図3)。 このように、ごみから貯蔵可能な形態の燃料として炭化物をつくり、化石燃料を多く使っている火力発電所、製鉄工場やセメント製造施設へ供給すれば、化石燃料使用を代替し、地球温暖化防止へ寄与することができます。ただし、炭化物を代替燃料・材料として上手に利用するためには、炭化物の品質管理とともに地域産業との連携による安定的な炭化物の需要確保が重要なポイントとなります。 一方、木質系バイオマスなど比較的単純な組成で炭素分が多い良質のものについては、炭化した上で水蒸気や薬品添加を伴う熱処理を行い、炭化物内に細孔構造を発達させ、市販の活性炭と同様の機能を持つ多孔質物質としてより価値の高い材料を開発する研究も進められています。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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