循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年11月17日号

ガス化-改質技術による廃棄物系バイオマスからのエネルギー回収

川本克也

 わたしたちの生活から出るごみや、工場などでの生産活動にともなって発生する廃棄物は、衛生的な環境を保ち最終処分する量を減らすことを目標に、また、環境に対して有害な影響が生じないように、日々処理されています。これに加え近年では、廃棄物の資源化により、限りある資源の循環利用を図ろうとする方向性が鮮明になってきました。また、ダイオキシン類などの有害物質の問題だけでなく、地球温暖化といった性格の異なる影響にも配慮をすることが求められるようになっています。

 今回は、このような多くの問題を同時に改善していくことを目指して取り組んでいるエネルギー循環利用技術の開発、その中でもガス化-改質技術に的を絞ってお話します。なお、本マガジンの2007年1月22日号2008年2月18日号の同じコーナーでもこれに関連する一部の課題を取り上げたほか、国立環境研究所ニュースVol.26, No.6(p.3-5)ではガス化-改質に関する研究の全体像を紹介しました。

ガス化-改質技術研究

 なぜ、ガス化-改質技術に研究開発のねらいを定めるのかについて改めて述べますと、現在の主たる廃棄物処理技術である焼却が、完全酸化型の燃焼による減量と熱利用を目指すのに対し、ガス化は熱分解ガスという多様な利用可能性を秘めたガスを取り出す技術である、ということです。長所・短所いずれもありますが、水素(H2)、一酸化炭素(CO)、メタン(CH4)などの可燃性ガスを得て、エネルギーとしての利用が開けることを私たちは第一に評価しています1)。しかし、ガス化しただけでは利用の幅は狭く、石油精製と同じように改質を行って用途に応じて有用なガスに精製・変換する必要があります。そこでこの技術開発では、いかに原料の廃棄物系バイオマスから効率よく有用な成分を高濃度で取り出し、逆に不要または支障となる物質の生成を抑えるかが重要になります。そして、可能な限り低温で進めることによって、エネルギー消費をできるだけ抑えたいと考えています。そのための鍵は、触媒の上手な利用です。

 触媒とは、それが共存すると反応速度を大きく向上させるなどの効果をあげる物質で、平衡となる時点での生成物の量に触媒自体は無関係です。従来から、遷移金属元素に性能のよい触媒が見出されてきましたが、木質バイオマスなどのガス化によい効果を示す触媒がいろいろと研究されています。例えば、二酸化ケイ素(SiO2)にセリウム酸化物(CeO2)とロジウム(Rh)を加えた触媒は、バイオマス中の炭素のガス化効率が大変よく、副生物としてさまざまな阻害を与えるタール分も部分的な酸化によって低減することができるとの研究例があります2)

(図)木質バイオマスを用いたガス化-改質プロセスにおける触媒とCaOの適用効果(ガス化、改質ともに温度750℃)

 私たちのグループは、実用性を考えてもう少し安価なニッケル(Ni)を主体とした水蒸気改質触媒を種々試してきました3, 4)。ここで、触媒の適用によって実現したい目標を再整理すると、[1]ガス化の効率を向上させ、発電または液体合成など利用目的にかなった組成のガスを得ること、[2]タール分、多環芳香族化合物、含硫黄化合物など利用の阻害となったり環境影響を及ぼすかもしれない成分の発生を大きく抑制すること、の2つです。 多くの実験から、触媒でも酸化カルシウム(CaO)を含むものがこれらの面で性能がよいこと、さらにCaOを足すと総合的にバランスのよい性能を発揮することがわかりました。図は、木質バイオマスのガス化-改質において、触媒とCaOを組み合わせたことによる各生成物への影響を示したものです。H2の濃度が増大して、逆にCO2が減ることがわかります。CaOがCO2の生成を減らしたのはCaO+CO2⇔CaCO3の反応が起こり、そのため水性ガスシフト反応:CO+H2O⇔CO2+H2の平衡がH2生成側に進んだことによると考えられます。 また、タールについては、触媒のみの場合に比較して半減することがわかります。図には示しませんが、廃プラスチック類と紙から作られる固形燃料(RPF)を用いた実験も行っています。それによると、木質バイオマスの場合の方が触媒のタール減少効果が高いことがわかりました。一部のタール成分の分解は、H2の濃度を押し上げる要因になるとも推測しています。ただし、タールによる障害が起こらないようにするには、もう一段生成濃度を低減させる必要があります。それには、より有効な触媒を探索するとともに、それらを反応容器内に充てんする量の最適化などをさらに検討する必要があります。

 触媒の適用で重要なのは、連続的な運転が可能となるようにうまく再生して使う技術的条件を見出すことです。この課題については現在検討を進めていますが、木質バイオマスでは再生行程を経てもH2の濃度はあまり減少しないことをつかんでいます。次の機会にこのコーナーで詳しくお話できると思います。

 さて、私たちが開発している技術はまだ大規模に実用化されてはいませんが、将来きっと社会に役立つ技術になると考えて取り組んでいます。未知の領域を切りひらき新しいものを作り出す喜びが研究にはあります。興味を覚えたら扉をたたいてください。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 川本克也ほか:熱分解ガス化-改質によるバイオマス・廃棄物からの水素製造技術の現状と課題、廃棄物学会論文誌、15、pp.443-455、2004
  2. Miyazawa,T. et al.: Promotion of oxidation and reduction of Rh species by interaction of Rh and CeO2 over Rh/CeO2/SiO2, J. Phys. Chem. C, 112, pp.2574-2583, 2008
  3. Wu, W. et al.: Hydrogen-rich synthesis gas production from waste wood via gasification and reforming technology for fuel cell application, J. Mater Cycles Waste Manag, 8, pp.70-77, 2006
  4. Kawamoto, K. et al.: High efficiency hydrogen production from biomass waste via low temperature gasification-reforming technology with catalytic materials, Conference Proceedings, Hydrogen and Fuel Cells 2007 International Conference and Trade Show, pp.264-271, 2007
関連研究 中核研究3
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