2008年10月20日号
素材産業を中核とした資源循環システム大迫政浩
循環型社会構築の担い手である素材産業私たちの生活は、様々な素材でつくられた製品によって支えられています。建物や車、家具類、日用品、そして製品を売り買いする貨幣も、鉄やセメント、プラスチック、紙、銅合金などの素材からできています。 これらはすべて、地球に存在する有限な資源を使ってつくられているわけですから、際限なく使い続けると、いつかは枯渇してしまいます。そこで、これらの素材をつくる産業(素材産業)では、資源を大切に利用し循環型社会を構築していくために、これまで多くの努力がなされてきました。できるだけ廃棄物や他産業からの副産物等を利用して天然資源の利用を減らす努力を重ねた結果、今では世界で最も進んだ取組が行われている産業になっています。このような効率化は、もちろん製造コスト低減にもつながり、日本の素材産業の競争力を高めています。 今回は、素材産業の中で鉱物系の素材を製造している鉄鋼業、非鉄製錬業、セメント製造業に焦点をあてて、循環型社会の構築の担い手としてどのような取組が行われているか、そして資源消費抑制や環境負荷低減にどの程度貢献しているかについて、研究成果をまじえながら紹介したいと思います。 各素材産業の取組鉄鋼業には鉱石、鉄くずなどから鉄及び鋼を製造する工程と、鉄及び鋼の鋳造品、特殊鋼材などを製造する工程があり、主に、鉄鉱石と石灰石、石炭を原料として粗鋼を生産する高炉メーカーと、鉄くずを主原料として電気炉で溶解して粗鋼を生産する電炉メーカーに分けられます。日本の粗鋼生産は年間1億トン程度で、中国に次いで世界第2位の規模になっています。天然資源として鉄鉱石、原料炭等が約2億5,000万トン使われ、また、廃棄物や他産業からの副産物、使用済み製品としての鉄くずが5,000万トン弱、廃プラスチックや廃ゴムタイヤが約40万トン利用されています。粗鋼を生産した際にスラグ等の副産物等が約4,500万トン発生し、それらの大部分はセメント原料や土木資材等として利用され、最終処分される量は約80万トンであり、再資源化率は97%になっています。 次に非鉄製錬業は、鉱石、金属くず等を処理し、銅、亜鉛、鉛などの地金を精錬して生産しており、その量は非鉄金属地金(銅・亜鉛・鉛のみ)として250万トン強になります。天然資源の鉱石が600万トン弱、金属を含む廃棄物や副産物等が約200万トン利用されています。精錬工程からはスラグ等が300万トン強発生し、鉄鋼スラグと同様に様々な用途に利用されていますが、最終的に50万トン弱が処分され、再資源化率は86%となっています。 最後にセメント製造業は、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料などを調合し、巨大な回転窯に投入して石炭で高温焼成した後、出来た塊状のクリンカを粉砕して石膏を加えてセメントを製造しています。セメントの生産量は7,000万トン強ですが、1億トン強の原料・燃料のうち3,000万トン弱は他産業で発生した廃棄物・副産物等です。スラグや石炭灰、焼却灰、下水汚泥、廃石膏、廃油、廃プラスチック、廃タイヤ、汚染土壌(2008年10月20日号「まめ知識」参照)など、多様なものが受け入れられています。(以上、各素材産業ともに2004年度実績) 各素材産業の環境効率どの程度の資源消費あるいは環境負荷によって、どれくらい経済的に価値のある財やサービスを生産できるかを「環境効率」と言います。特に資源消費の観点からは、これを「資源効率」もしくは「資源生産性」とも呼びます。できるだけ少ない資源消費や環境負荷で、できるだけ多くの経済的価値、豊かさを生み出せるように、私たちは努力していく必要があります。 ここでは、各素材産業の環境効率について考えてみたいと思います。環境効率としてはいろいろな指標が提案されています。国が策定している循環型社会形成推進基本計画(循環基本計画)では、国内で生み出された経済的な価値の合計である国内総生産(GDP)を天然資源等投入量で割った「資源生産性」が指標として用いられ、計画の目標値も設定されています。2015年の目標は42万円/トンで、2005年度時点では33万円/トンになっています。 各素材産業の経済規模は、鉄鋼業が他の二つに比較してかなり大きいのですが、合計すると製品出荷ベースでは十数兆円、原材料費等を除いて新たに生み出した経済価値(付加価値)では数兆円に上り、日本の製造業を支える重要な産業になっています。ただし、資源生産性は高くても非鉄製錬業で数万円/トン程度です。循環基本計画における資源生産性の目標は、天然資源をほとんど使わずに経済価値を生み出すサービス産業も含めた平均的な値なので、素材産業のように大きな重量をもつ天然資源を使っている産業ではどうしても資源効率は小さくなります。その意味では、異なる業種の間の資源生産性を比較してもあまり意味はありません。 そこで、各素材産業がもし廃棄物・副産物等を利用していなかった場合にどの程度の天然資源が必要で、そのうち廃棄物・副産物等を利用することでどの程度天然資源を節約しているかを試算してみました(表)。計算においては、利用されている廃棄物・副産物等の一つ一つの種類について、どれくらいの天然原料や燃料を代替しているかを、含まれる有用物質の含有量や熱量に基づいて換算し、それらをすべて積み上げました(ただし現時点では暫定値であり、今後精緻化を図る予定)。 この試算では、廃棄物・副産物等を利用することによる電力消費の変化は無視していますが、天然資源の節約により資源効率を大幅に高めていることが分かります(最も高い鉄鋼業の場合、31%の節約率で資源効率は約1.5倍に向上することになります)。 環境効率の観点からは、地球温暖化対策も重要な課題です。各素材産業は、温室効果ガス排出量も他の産業に比較して多く、今後、副産物や使用済み製品の利用による温室効果ガス削減効果を評価していくことも重要です。これらの素材産業の取り組みは、循環型社会と低炭素社会の同時実現に貢献できる可能性を持っています。 一方、公共工事が縮小している状況で、鉄鋼スラグや非鉄スラグのリサイクル用途の確保は今後の最重要課題です。セメントの生産量も漸減しており、これらのスラグを含めた各種副産物の受け入れ量も限界にきつつあります。日本の資源循環システムを支えてきた素材産業の長期的な将来の戦略づくりが求められているのです。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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