循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2008年6月9日号

中古家電(テレビ)の海外リユースと環境問題

吉田綾

 家庭で眠っている、捨てるのにはもったいない洋服や雑貨、家電製品などを売ることができるリサイクルショップ、フリーマーケットなどは、私たちの生活のなかで、より身近な存在になってきました。実は、日本で使われた家電製品やパソコンは、日本に限らず、海外の中古市場でもリユースされています。 しかし、海外でのリユースについては、廃棄物のようなものが輸出先で解体処理されて環境を汚染しているのではないかという否定的な意見もあります。海外での修理・使用・廃棄などの実態がわからないため、日本からの中古家電輸出の是非を論じるためには、実際に現地に赴いて調べる必要があります。 今回は、2007年末から2008年2月にかけて、私たちが日本からフィリピンへ輸出された中古テレビについて調べた結果をご紹介します。

 まず、海外へ輸出される中古品には、家庭で使われたものの他に、ホテルや病院、会社等で使われたものがあります。排出者から、回収業者(収集運搬業者)や中古品を売買する業者を経由して、輸出業者へ渡ります。

写真1:コンテナに積載された中古テレビ

 写真1 は、中古テレビをコンテナに積載している状況ですが、新品とは異なり、箱には入れられていません。ブラウン管画面は段ボールで簡単に保護され、輸送途中で崩れて壊れることのないよう、隙間なく積まれています。 長さ40フィートのコンテナ(容積67m3)に積まれるテレビの台数は、サイズによって異なりますが、平均800〜1,300台程度です。積載後は国内輸送(半日)、国内港での保管(約3日)、海上輸送(約10日)を経て、最短約2週間でフィリピンに到着します。

 到着したコンテナは、輸入業者の倉庫で開封されます。今回調査したコンテナを調べたところ、輸入中古テレビの製造年は、最も古いもので1988年、最も新しいものは2005年であり、数量としては1997〜2000年に製造されたものが約半分を占めていました。 この輸入業者は中古テレビをコンテナから積み出した後、全体の約3割(293台)を直接、他の業者に売却しています。残りの製品575台のうち、外装のひび割れなどの破損が見られたのは16台でした。したがって、フィリピン到着時の(外装)破損率は3%程度と考えられました。 売却されなかったテレビは、この輸入業者が修理をして販売しています。

 修理の工程では、まず、外観が破損しているものについては、接着剤でキズをふさぎ塗装するなどして、修理します。ブラウン管の表面にキズがある場合は研磨します。破損がないテレビについては、通電検査を行います。この検査で、電源が入らないものや画面が写らないものについては、基板の修理・部品の交換などを行います。 フィリピンと日本では電圧が異なります。 また、日本のチューナーではフィリピンの番組が受信できないため、日本から輸入されたテレビは全て、変圧器の取り付けとチューナーの改造(または交換)の修理が必要です。通電検査で画面が映らないなどの異常が見られたものは、14インチの場合は40%程度、サイズが大きくなるほど故障率が高くなる傾向があるようでした。

 では、このような中古テレビはどのような人々が購入しているのでしょうか。マニラ首都圏9箇所の中古販売店において、中古家電等を購入した(または購入予定)の消費者(約100名)を対象として、アンケート調査を行いました。2000年におけるフィリピン(都市部)の平均年収20万ペソ(約54万円)を下回る収入の人は、回答者の7割以上を占めました。 中古テレビを購入する理由は、「安価」を理由にあげる人が約8割を占め、使用期間については、「修理できなくなるまで」を選んだ人が約45%、次いで「手頃な価格の製品が出るまで」「修理を必要とするまで」「気に入った製品がでるまで」という回答が多い結果となりました。推定使用年数は「5年」という回答が最も多く、それ以上(6〜10年)を選択した回答とあわせると65%を超えていました。 これらの結果から、日本の中古テレビは、フィリピンの低所得世帯を中心に購入され、修理できなくなるまで、繰り返し修理されて使用されることが分かりました。

写真2:マニラ首都圏のSavior Dumpsiteで銅線を焼く子供たち

 最後に、使えなくなったテレビがどのように廃棄・処理されているかについて見てみましょう。廃棄製品や修理で交換した部品などは、鉄、銅、基板、プラスチックなど素材ごとに分けられ、資源回収業者に売却されます。プラスチックくずの一部は国内でリサイクルされますが、破砕して中国へ輸出されるものもあります。基板は、貴金属が含有している部分を王水に浸けて貴金属を回収していました。 最終処分場では、細い電線・ワイヤーを野焼きして銅を回収していました(写真2)。また、ブラウン管ガラスをハンマーで砕き、金属を回収していました。砕いたガラスも回収される場合があるようですが、価値が低いためそのまま放置されることもあるようでした。このように、使用済みの製品から有価金属・資源は回収されていますが、処理工程において有害物質が人体に与える影響、環境中への排出が懸念されました。

 日本の中古市場では売れない8〜14年前のテレビが、フィリピンで修理されて、引き続き使用されることは、フィリピン国内の新品テレビの需要を代替するという意味で、新品の製造過程の環境負荷削減につながります。しかし、その一方で、製品の処理やリサイクルが不適切な方法で行われれば、結果として環境を汚染するおそれがあります。しかし、この処理・リサイクルに伴う環境汚染は、日本の中古品に限らず、新品の製品についても考慮すべき問題です。

 アジアの発展途上国では、経済的にも技術的にも適正な廃棄物処理・リサイクルの実施がまだ十分ではありません。中核研究プロジェクト4では、引き続き、アジア各国での資源循環や廃棄物処理に関する現状を把握し、途上国に適合した技術システムの開発を進めていきたいと考えています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 寺園淳ほか:平成19年度廃棄物処理等科学研究 研究報告書「アジア地域における廃電気電子機器と廃プラスチックの資源循環システムの解析」、2008年
関連研究 中核研究2 関連研究 中核研究4
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