循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2007年9月18日号

「はかる」ことを評価する

鈴木 剛

 製品の使用・廃棄・再利用のサイクルにおいては、有用な物質だけでなく、有害な物質にも着目しておく必要があります。有害な物質については、このサイクルから排除しなければならないからです。有害物質が廃棄物にどれくらい含まれているか、廃棄され焼却処分されても残る有害物質や、新たに生成される有害物質が環境中に放出されていないかなどを確認するためには、「はかる(計る、測る、量る)」ことが重要な技術となります。

 しかし、問題のある「はかる」方法では、間違った情報を得ることになり、見当違いな対策を講じることになりかねません。それでは、「はかる」ことの妥当性は、どのような時にどのような方法で評価・確認されるべきなのでしょうか。ここでは、私たちが取り扱った最近の研究例を取り上げて、その方法について紹介します。

<新しく化学物質を「はかる」場合>

難燃剤として家電製品や繊維製品に利用されている臭素化ジフェニルエーテルは、ヒトや野生生物、環境中への蓄積性や有害性の点で国際的に懸念が広がっています。この物質は難燃処理されたプラスチックに高濃度に含まれることが報告されていることから、このような廃プラスチックを適切に処理することが求められています。そのためには、処理プロセスにおける挙動を「はかる」必要があります。 国内外で規制対象となっているダイオキシン類については、極微量に環境中に存在するため「はかる」ことが非常に難しいのですが、環境省などの関係各省庁やJIS(財団法人日本規格協会)によって「はかる」方法の標準化が進み、研究所や大学機関、分析会社などの測定データの信頼性が高くなっています。一方、臭素化ジフェニルエーテルについては、国際的な関心を集めたのがダイオキシン類よりも遅かったこともあり、「はかる」方法の妥当性については評価の途上にあるといえます。

 そこで私たちは、臭素化ジフェニルエーテルの測定法の開発やその信頼性を検証するための調査研究を実施しました。複数の研究機関や分析機関に、すでに濃度が分かっている臭素化ジフェニルエーテル溶液や均質に調製した共通試料(廃テレビのプラスチックカバーなど)の分析を依頼して、測定結果の解析を行いました。データのばらつきは概ね小さく、欧州で行われた同様の研究と比較しても良好な結果が得られ、参加機関で採用されている「はかる」方法が妥当であることが示されました。 「はかる」方法が確立されていない化学物質を測定対象とする場合には、基準となる値を得ることができないので、上述のように提出データのばらつき具合で、その方法が評価されます。提出データがばらつく場合には、その原因が調査され、改良された分析手法が提案されます。


<新しい測定法で化学物質を「はかる」場合>

 ダイオキシン類は、ダイオキシン類対策特別措置法で規定されている高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計を用いる公定法によって測定されています。しかし、この測定法は分析に多大な時間や費用がかかることなどから、簡易な代替測定法の確立・利用が求められるようになりました。これをうけ、環境省は、2004年12月に同法施行規則の一部を改正する省令で、廃棄物焼却炉の排出ガスなどに含まれるダイオキシン類の測定の一部に生物検定法(バイオアッセイ)を簡易法として追加しました。その背景には、簡易法を開発して、それが適切な方法であることを確認した研究機関の努力があります。

 バイオアッセイでダイオキシン類を検出することの妥当性を確認する試験が、開発研究機関によって実施されました。この確認のために3つの試験が行われ、私たちも世界各地の研究機関・大学と共に参加させていただきました。まず、試験1では、すでに濃度が分かっているダイオキシン類溶液を測定し、バイオアッセイがダイオキシン類を正確に測定できるかが評価されました。試験2では、様々な化学物質が含まれる試料抽出液を測定して、そのような場合でもダイオキシン類を正確に測定できるかどうかが評価されました。試験3では、参加機関が同じ方法でそれぞれ調製した試料抽出液を測定して、 抽出・精製を実施することのデータへの影響の程度が評価されました。測定データは、ばらつきだけでなく、公定法値と比較して評価されています。その結果、データのばらつきや公定法値との差は、バイオアッセイの性能よりも抽出・精製の熟練度により大きく影響されることが分かりました。つまり、試料の調製方法については改良の余地があるものの、バイオアッセイは公定法と比較しても妥当な技術レベルでダイオキシン類を検出できるということが確認されたのです。

 このように現状を把握して、判明した問題の解決に取り組むことによって、「はかる」技術の底上げが行われていきます。

 「はかる」ことは、その後の方策に繋がる重要な技術です。その技術レベルを上げるための調査研究を引き続きバックアップしていきたいと思います。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 高橋真ら:2-3 有機臭素化合物の測定に係る相互検定研究、平成16〜18年度廃棄物処理等科学研究 総合研究報告書(K1608・K1724・K1836)、pp.39-52、2007
  2. 鈴木剛ら:DR-CALUXアッセイを用いた食品および飼料中のダイオキシン類測定に係る国際相互検定研究、環境化学、印刷
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