2007年6月4日号
海につくる処分場の話遠藤和人
皆さんはごみ箱に何も捨てない日があるでしょうか?家庭から出ているごみとレストランや小売店などから出しているごみ(「一般廃棄物」と呼んでいます。)を合わせると、国民一人当たり約1.1キログラムのごみを毎日出していることになります。 一般廃棄物のほとんどはごみ置き場に出されて、自治体のごみ収集車がそれを集めて処理しています。毎日集められるごみのうち、80%がなんらかの形でリサイクルされたり、焼却されたりして、最終的に20%くらいのごみ(不要物)が残ります(以上、2001年度のデータ)。 この残ったごみをどうするかというと、最終処分場という施設に埋めているのです。 最終処分場とは、ごみを安全に埋めるための施設で、お椀のような器になっています。このようなお椀の形状は山の谷間に作ることが経済的かつ合理的でもあるので、処分場の多くは山間部に作られていますが、日本の場合、人里離れた処分場に適した山間部もそれほど多くないため、 ごみを海に埋めるという独特の技術があります。この処分場を「廃棄物海面処分場」と呼び、東京都の夢の島が有名です。 現在では全国に80を超える海面処分場がありますが、実は、海面処分場を作っている国は世界的にも珍しく、本格的に設置・活用しているのは日本くらいのものです。これは、日本が海に囲まれているという環境だけでなく、海洋土木技術が世界有数の高水準であることも理由です。 日本の沿岸部は幸いにして遠浅であり、厚い粘土層が海底に広く堆積しています。この粘土層は、水を通しにくい性質をもっているので、その上にごみを積み上げても汚濁物質が海底に漏れていくことがありません。では、水平方向はどう工夫しているのでしょう? ここは、日本の海洋土木技術の出番です。 通常の港でも見られる光景ですが、海と陸との境界部分にコンクリートや丸い鋼製の材料で絶壁が作られていることがあります。絶壁の沖合には波の強度を和らげるのためのテトラポットが大量に沈められています。このような構造物を護岸と呼びます。港などの護岸は、通常、水を通しやすい構造になっていて、 護岸に水の重さが加わって転倒するのを防いでいます。しかしながら、処分場の護岸の場合には、そうはいきません。護岸の内部にある処分場で生じた汚水が、壁を通して海側へ漏れないようにするため、より大きく頑丈な護岸を作って内部に水が溜まっても倒れない構造にする必要があります。これを遮水護岸と呼びます。 海の中の厚い粘土層の上に、遮水護岸をつくれば、四角く囲んだ形の海面処分場のできあがりです。 海面処分場にごみを埋めていけば、海面処分場の中の水位は上昇していきます。護岸の上から汚水があふれ出ては困るので、貯まった水はポンプで外に出します。その水を海へ放流する前には、ごみから溶け出した汚濁物質を処理施設で取り除く処理をします。海面処分場にごみを埋め続けると、 やがて水面よりも上側までごみの層が達することになります。こうして、ごみで作られた陸地が出没します。最後に、覆土(ふくど)と呼ばれる土を50センチメートルから1メートル程度かぶせる工程を経て、処分場の埋め立てが終了します(図)。護岸を作り始めてから、埋め立てが終了するまで、20年以上かかる場合がほとんどです。 覆土がされた海面処分場は、一見しただけでは、ごみが埋まっていることが分かりません。しかし、その下には、水没した状態のごみが大量に埋まっているのです。そのため、これらからの汚濁水が処分場の外へ漏れ出すことを継続的に防ぐ工夫をしなければなりません。その対策の一つに、 水が高いところから低いところへ流れる性質を利用し、処分場の中の水位を、護岸の外側の海面よりも常に低く保つことが挙げられます。そうすれば処分場中の汚水は外にいきません。そのような状態を保つためには技術が必要ですし、管理者に対してそれを守らせるための規則も必要になります。 もちろん、その土地をむやみに掘り返すことも許されません。これらのことを守っていれば、臨海部に東京ドームの10倍程度の広さの国土が誕生し、その土地を安全に利用することが可能になります。 さて、このように日本が誇る海面処分場には、どのような利点があると思いますか。まず大きさの点では、我が国の陸上処分場が約14万立方メートルと小規模なのに比較して、海面処分場の平均的な大きさは約300万立方メートルもあります。さらに、処分場を作るのに必要な経費も、埋め立てられるごみ1立方メートルに対して、 海面は6,000〜15,000円程度であり、陸上の10,000〜30,000円程度と比べ割安になります。この差の主な原因は、大きさの違いです。大きな処分場を作れる海面処分場には、このようなコスト面のメリットもありますし、専門的な知識を持った技術者を処分場に張り付かせることでより安全な施設整備を行えるという利点もあります。 将来、リサイクルがどんなに進んでも、人間がごみを捨てなくなるわけではありません。したがって、私たちは、ごみの埋立場所を確保しなければなりません。より安全に、より安く処分場を整備していくため、循環センターでは海面処分場に着目しています。海面処分場を我が国のどこに作ればよいか、 どのように作れば安全なのか、埋め立てたごみをどのように管理すれば安全性を継続できるのか、処分場中の汚濁水をどのように処理し、監視し、制御すれば良いのか、安全な跡地利用の方法は何かということを研究し、安全・安心な処分場整備を目指しています。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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