循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2007年4月16日号

ごみの建設材料へのリサイクルと環境安全性

肴倉宏史

 日本の社会が「循環型社会」を唱えるようになった原因のひとつには、ごみ埋立地(最終処分場とも言います)を新たに作ることがとても難しくなったという事実があります。そこで、私たちの暮らし方を、毎日出てくるごみを減らし、 ごみを利用していくスタイルに変えていかなければなりません。また、その際は、暮らしの中でリサイクルされるごみの、私たちの健康や自然環境に対する影響をしっかりと把握しておくことが大切です。

 そこで今回は、皆さんの生活に身近な建設物に使われている"再生材"や使わなければごみとなる"産業副産物"の環境安全性の調べ方や考え方に関する取り組みを紹介したいと思います。「環境安全性」とは耳慣れない言葉かもしれませんが、 単に安全性と言うと作業中のケガなどに対する安全性をイメージする場合も多いことから、ある材料や製品の、周囲の環境や人の健康に対する安全性を表す言葉として使われています。

 さて、再生材や産業副産物には、どのような種類があるのか、いくつか代表的なものを紹介しましょう。

 ごみ溶融スラグは、毎日の生活から出るごみから生まれる「再生材」です。ごみの埋立に困っている市町村では、ごみやその焼却灰を千数百度の高温で溶融する処理を行い、溶かした残さを冷やし固めて得られるスラグを砂や砂利の代わりに建設材料に使うという動きが最近とても増えてきました。

 一方、傷んだ道路をはがしたり、古くなったビルを壊したりすると、様々な使用済み材料が発生します。このうち、アスファルトコンクリート塊やコンクリート塊は、ある程度の大きさまで砕くなど処理して、砂や砂利の代わりに再び使われます。これらは建設系の「再生材」と呼ばれます。

 また、製鉄所や金属精錬所では、鉱石から金属を取り出した後の成分として鉄鋼スラグや非鉄スラグが大量に発生します。石炭火力発電所でも、石炭を燃やした後に石炭灰が大量に発生します。鉄鋼スラグ、非鉄スラグ、石炭灰などは、本来の目的(精錬や発電)を果たした後の残さとして副次的に発生するので「産業副産物」と呼ばれます。 これらの産業副産物は、それぞれの特徴に応じてセメント原料や砂・砂利の代わりとしてずいぶん昔から使われてきました。このように、産業副産物は使って貰えれば立派な商品であり、廃棄物ではありません。しかし、使い道が無く余ってしまうと、いわゆる「産業廃棄物」として埋立処分せざるを得なくなります。冒頭でも述べたように、 今の日本は埋立地の確保にとても困っているので、廃棄物にならないように様々な努力が重ねられています。

 それでは、これらの再生材や産業副産物の環境安全性はどのようにして確認するのでしょうか。今日まで何十年もの間利用されてきた建設系再生材や産業副産物は、(環境に及ぼす特段の影響は報告されていないことから)経験的に、環境安全性は十分に高いとみなせるかもしれません。そのような理由からか、あらゆる再生材や産業副産物を対象とした、 法律に基づいた検査方法はまだありませんでした。その一方で、ごみ溶融スラグの利用を促進しようとする動きが、最近の十数年位の間に活発になりました。そのとき色々な人たちから、「ごみ溶融スラグは環境上の安全性に問題はないの?」という問いかけがなされるようになりました。

 その問いかけに応える動きとして、ごみ溶融スラグの環境安全性の確認については、重金属など特定の有害項目について「土壌環境基準」を代わりに適用していました。そして2006年7月には、道路材料とコンクリート材料のそれぞれに用いられる際の、ごみ溶融スラグの「JIS規格」が策定されました。JIS規格は法律ではありませんが、製品としての高い品質を保証してくれるものです。 このJIS規格の中には環境安全性に関する項目として、「溶出量基準」と「含有量基準」が設けられました。溶出量基準は土壌や地下水への影響を判定するために、水を溶媒とする「溶出試験」を行い、結果を基準(土壌環境基準と同じレベル)に照合させます。含有量基準は直接摂食した場合のリスクを判定するために、強酸性の溶媒を用いる「含有量試験」を行い、結果を基準(土壌汚染対策法で定められた土壌含有量基準と同じレベル)に照合させます。

 このように、ごみ溶融スラグを道路材料またはコンクリート材料に用いるための環境安全性の基準がまずは出来上がりました。このことは再生材や産業副産物の環境安全性評価・管理において、とても大切な前進です。そしてそれ以外のたくさんの課題についても、研究成果を蓄積して、十分に議論を重ねながら、一つ一つ解決していく必要があります。

 これからの環境安全性評価方法に関する研究課題について、ポイントを一つ挙げておきたいと思います。それは、「再生材や産業副産物そのものを評価するのか(材料評価)、それとも、他の材料と混合したり成型したりした後の製品を評価するのか(製品評価)を、よく考えて、評価の仕組みや試験方法を決めていくこと」です。溶融スラグのJIS試験は、どちらかというと材料評価の考え方で示されていますが、一部で製品評価の考え方も取り入れられています。

 材料評価の考え方では、もし、モノ自体が天然材料と同レベル以上に環境上安全ならば、その後、どのような製品になっても大丈夫とみなせるかもしれません。そうすると、材料評価に合格したものは、使用後の追跡調査も必要なくなると思われます。しかし、その基準に合格できなかった再生材や副産物は埋立処分するしかありません。

 一方、製品評価の考え方では、実際にどのような製品として使うのかというシナリオを描き、それに沿った評価をすることになります。そのためには様々なシナリオに適した試験方法を準備しておく必要があります。また、環境中での利用が終了するまで製品の管理をしっかり行い、終了したら、別の用途に再利用するための評価を改めて行う必要も生じることになるでしょう。このように手間はかかりますが、材料評価に比べ、利用できる再生材の幅をより広げられる可能があります。 現在、私たちは、材料評価と製品評価の考え方を上手に組み合わせた評価の手順と試験方法の提案に向けた研究に取り組んでいます。

 再利用を考えずに廃棄物をどんどん埋め立てたり、産業副産物を廃棄物として処分にまわす余裕は日本にはもうほとんどありません。環境安全性を十分に確保しながら、再生材や産業副産物を私たちの身の回りで使っていくための仕組みや方法づくりに向けて、知恵を出し合っていきましょう。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 大迫政浩、肴倉宏史:再生製品の環境安全管理に関する現状と今後の展望−建設資材系再生製品に関する評価方法と許容基準−、廃棄物学会誌、17(4)、pp.206-233、2006
関連研究 中核研究2
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー