活動レポート
2016年2月号

カナダ・トロント大学滞在記

倉持 秀敏

トロント大学の紹介

私は、9月中旬からカナダのトロントに滞在し、トロント大学(University of Toronto)にて海外研修をしています。トロントは、カナダ以外で産まれた人が人口の半分以上を占めており、「人種のモザイク」と呼ばれています。移民が多いこともあり、英語の不得意な私にも誰もが親切に接してくれるので、大変住みやすい町です。

居室がある物理環境科学科のビル 居室がある物理環境科学科のビル

研修先のトロント大学は、1827年にその前身であるキングスカレッジが創立され、カナダでも伝統のある名門大学の一つといわれています。キャンパスは、セントジョージ(ダウンタウンにある主要キャンパス)、スカボロー、ミシソーガに分かれており、私はダウンタウンから東に30kmほど離れたスカボローキャンパスにある物理環境科学科(Department of Physical and Environmental Sciences,写真)で研究をしています。写真のように冬は雪が溶けないほど寒いですが、ビル内は本当に暖かく、資源国だからできることと思いつつも、温室効果ガスの削減がもっとできるのではないかと複雑な心境になります。

研究室生活

私は、Frank Wania教授の研究室に所属しています。Wania教授は、有害化学物質が自然環境中でどのように移動し、分解または蓄積するのかを予測するFugacityモデルに関する研究の権威です。モデルによる計算だけでなく、環境中の有害化学物質の濃度を計測する研究や、計算で必要となる物理化学パラメータを測定し、推算する研究も行っています。また、研究対象も多角化しており、近年では廃電気電子機器(E-waste)に関する研究も行っています。私の研究ですが、Fugacityモデルを自然環境ではなく、リサイクル施設や廃棄物処理施設に適用しているところです。この適用が完成すると、例えば、リサイクル過程で有害化学物質が存在する場合に、施設内のどこに有害化学物質が濃縮されるのかを予測できたり、また、有害化学物質の環境に出る量を最小限にするにはどうしたら良いのかを提案することが可能になります。事故等で汚染されてしまった廃棄物のリサイクルや処理の方法を考えることにも使えるのではないかと思っています。

ドアを開けたままWania教授と議論 ドアを開けたままWania教授と議論、こんな感じで学生と何時間も議論しています。

Waina教授の研究室は、所属する大学院生は6名と規模は小さいですが、毎年いくつもの研究成果が一流学術雑誌に掲載されており、質・量ともに優れた成果を上げています。そこで、研究室の生活からその秘訣を私なり考えてみました。まず、先生方は、部屋のドアをいつも開けており、学生との議論に多くの時間を割いています(写真)。また、書類に追われるような日本の研究者と違って、リラックスして研究をしているように見えます。多くの議論と精神的なゆとりが研究の質の高さを維持しているのかもしれません。一方、実験では、実験室内にスノーマシーンやクリーンルームを作ってしまうなど、質の良いデータを取るためのこだわりにも驚きました。また、実験の作業効率も同時に考えており、結果を出すためのスピードもかなり意識しているようです。ほとんどの人が夕方5時頃に帰宅できるのも、効率化を常日頃から考えているからかもしれません。最後に、先生が持つ豊富な人脈です。つまり、学生は研究で何か知りたいことがあると、先生から専門の研究者をすぐに紹介してもらい、研究を迅速に進めることができます。 イラストこの研究交流は多くの共同研究も産んでおり、研究の質とともに量を維持するのにも大きく寄与しているようです。すぐに豊富な人脈を持つことはできませんが、良いところはすべて持ち帰り、研究成果の質と量を高いレベルで維持できるような研究組織を作り上げたいと思います。

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