循環・廃棄物の豆知識
2018年1月号

有害鳥獣と資源循環・廃棄物研究

鈴木 隆央

鳥獣被害対策への支援とジビエ振興

近年、有害鳥獣(ここでは主にシカやイノシシを指します)による農作物や森林植生などへの被害が全国的に深刻化しており、農作物被害額は年間200億円前後を推移しています。環境省や農林水産省は「平成35年度までにシカ及びイノシシの生息数を半減させる(平成25年度比)」という目標を設定し、捕獲強化に向けた様々な活動を支援しています。最近、「ジビエ」という言葉がよく聞かれますが、ジビエとは狩猟で得られた野生動物の食肉を意味します。ジビエは捕獲した有害鳥獣の有効な利活用手段として、また地域振興の方策としても全国的に注目されており、農林水産省による支援が行われています。また、地域ぐるみの被害防止活動や先進的な捕獲技術の実証なども支援の対象となっており、捕獲活動や食肉加工への支援は進んでいる状況です。しかし、捕獲した有害鳥獣を食肉にするためには高度な捕獲技術が必要であり、捕獲現場から食肉加工施設へ持ち込む制限時間も設けられています。そのため全てを食肉加工することは難しく、多くが廃棄物として埋設処理あるいは焼却処理されています。有害鳥獣の捕獲活動や食肉加工への支援が進む一方で、廃棄物としての処理体制に関しては整備が進んでおらず、捕獲者にとって有害鳥獣の廃棄は大きな負担となっています。

捕獲後の処理方法とその課題

鳥獣保護管理法において、有害鳥獣を捕獲した後は原則として捕獲場所から持ち帰ることとされていますが、やむを得ない場合は、生態系に影響を与えないような適切な方法で埋設処理することができます。現場での埋設作業は重労働であることから埋設が不十分になりやすく、他の動物を誘引してしまう可能性があります。そのため、捕獲現場から搬出して有効利用したり、焼却施設などで処理したりする方法が望ましいと言えますが、搬出作業も大変な重労働です。さらに、捕獲現場から搬出できたとしても、食肉やペットフードとしての利活用も簡単ではなく、堆肥にしたり飼料にして利用したりすることも一部しか認められていません。また、搬出後に廃棄物として処理する場合でも、焼却施設によっては事前に切断してから持ち込む必要があったり、持込料金がかかったり、受入時間が制限される場合があります。以上の理由から、捕獲後に現場から持ち出されることは少なく、不十分な埋設や不法投棄、埋設地不足などの問題が生じています。

分野横断的な取り組みの必要性

以前は野生動物や農林業分野の専門家や研究者、自治体担当者などが中心となって、有害鳥獣問題を解決しようと研究や実際の対策に取り組んできました。しかし、上記のように資源循環や廃棄物処理の問題も顕在化していることから、資源循環・廃棄物処理の分野においても有害鳥獣問題に積極的に関わっていく必要があります。私たちの研究グループでは、捕獲した有害鳥獣を適正かつ効率的に処理するために、捕獲から収集・運搬、利活用・処理までの流れをつなげた一体的な処理システムの構築を目的として、調査・研究を進めています。私たちの分野だけで検討を進めてしまうと、施設の処理能力と捕獲数の間にズレが生じるなど、捕獲側と乖離した内容になりかねません。地域の状況に応じたより現実的な処理システムを提案するために、野生動物や農林業分野の専門家などと情報交換を欠かさず行いながら、分野横断的な研究が行えるよう心がけています。

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