「デカップリング」という言葉はあまり耳慣れないかもしれませんが、環境や農業、経済などの幅広い分野で使われている専門用語です。ここでは「デカップリング」の意味を説明しましょう。
「カップル(Couple)」は「二つの組になっているもの」を意味し、日本語でも恋人同士や夫婦などを指す名詞として使われますね。動詞では「連動する、連結する」ことを意味し、これに否定を表す接頭辞の"de-"が付く「デカップル(Decouple)」は、「切り離す、分離する」という意味になります。「デカップル(Decouple)」の現在分詞である「デカップリング(Decoupling)」は、連動性の強い2つのものを政策的に切り離すこと、あるいは、あるきっかけによって連動しなくなることを指します。では、何と何が切り離されるのでしょうか?それは、専門分野によって異なります。以下では、環境分野を含めた幾つかの専門分野での使われ方を紹介します。
まず、経済や金融分野では、主に「世界経済」と「米国経済」が連動しなくなることを指します。アメリカは戦後の世界経済の牽引役でしたが、近年では中国などの新興国や欧州連合(EU)の存在感が増す中、米国経済の影響力は相対的に小さくなり、デカップリングが起きているとされています。しかしながら、2008年に起きたアメリカのサブプライム問題に端を発した世界経済危機では、その影響力が再認識されました。
農業分野では、農産物の価格を一定水準に維持することで農家の生産意欲を刺激し、農家が生産量を増やすほど所得も増えるような保護政策がとられることがあります。しかし、こうした政策は、生産過剰になったり、自由貿易の妨げになるために、市場や貿易を歪曲するという批判があります。そこで、「生産」と「所得」の連動を切り離し、生産量とは関係なく、農家に直接的な所得保障をすることをデカップリング政策と呼びます。
最後に、環境分野においてデカップリングは、主に「経済成長」と「天然資源の利用」や「環境影響」を切り離すことを指します。20世紀の急激な経済成長は、天然資源の採取や消費の増加に支えられ、様々な環境への悪影響を引き起こしてきました。しかしながら、限りある資源を無尽蔵であるかのように使い続けることも、いま以上に環境問題を拡大させることも許されません。先進国に住む私達の中には、もう経済成長そのものを追い求めなくてもいいと考えるひともいるかもしれません。けれども、未だ貧困に苦しむ開発途上国では、ひとびとが仕事や教育、食料、保健医療などの最低限のものやサービスを手にし、尊厳のある生活を営むために、まだまだ経済成長は必要なのです。全世界において公平で豊かな暮らしを実現するには、経済活動と資源消費や環境影響の連動を切り離すこと、すなわち、資源をたくさん消費しなくても経済成長できること、経済成長が環境への悪影響を伴わないようにすることが不可欠です。このデカップリングを進めるには、技術革新や社会変革によって、生産・消費・廃棄の各段階での資源効率や環境効率を高めることが必要です。それには国や自治体、企業の役割が重要になりますが、実は私達一人ひとりもデカップリングに貢献することができます。例えば、リサイクル・リユース製品を選んで買ったり、家の屋根に太陽光パネルをつけたり、エコカーを購入したり。こうした行動や選択は、資源の利用や環境悪化を抑えつつ、経済を活性化することに繋がります。自分と社会や地球環境との繋がりを理解して、責任ある行動や選択をしていきたいですね。
<より詳しく学びたい人は>
- UNEP International Resource Panel HP
※一部の報告書は日本語で公開されています。