平成11年、福岡県筑紫野市の安定型最終処分場で浸透水の排水ピット内に水質検査のため入った作業員3人が、濃度約15,000ppmの硫化水素ガスを吸い込み、死亡する事故が起きました。同年、滋賀県栗東町の安定型最終処分場でも約15,200ppmの硫化水素の発生が報告されました。硫化水素ガス発生の原因は、建設現場から発生する廃棄物に含まれる廃石膏ボードの中の成分が変化したためであることがわかりました。なぜ、化学的な反応が起こりにくいと考えられてきた廃石膏ボードから硫化水素ガスが発生するのでしょうか?
石膏とは、硫酸カルシウム(CaSO4)を主成分とする鉱物です。これを原料とした石膏ボードは防火性や遮音性などに優れているため建築材料として幅広く使われています。廃石膏ボードを埋立地に処分すると、ボードに紙や壁紙を貼る時に使われる糊、わずかに混合していた木くず、プラスチックに付着した有機物などが微生物によって分解し、埋立地の中が次第に酸素の少ない還元状態となっていきます。このとき、酸素の少ない状態で生育する硫酸塩還元菌が、エネルギー源として有機物を食べながら、石膏ボードに含まれる硫酸イオン(SO42-)を還元して、硫化水素(H2S)を発生させます。そして、次のような条件が全て満たされたとき、高濃度の硫化水素が発生する可能性が高くなります。硫酸塩還元菌が存在する、硫酸イオン(SO42-)が存在する、 硫酸塩還元菌の増殖に十分な有機物が存在する、硫酸塩還元菌の増殖に適当な温度・水分・嫌気的状態が保持されている、発生した硫化水素を捕捉する物質(鉄等)が少ない。
平成18年6月から、廃石膏ボードの安定型最終処分場への埋立処分が全面的に禁止となり、現在は管理型最終処分場に処分されています。しかし、廃石膏ボードの排出量は年々増加する(2010年には190万トン、20年後には400万トンになると予測される)。一方、管理型最終処分場の容量にも限りがあります。廃石膏ボードを石膏ボードの原料としてもう一度利用したり、地盤改良資材や建設資材などとして有効に再利用できる技術システムを開発する取り組みがますます重要になってきています。