循環・廃棄物のけんきゅう
2013年9月号

循環型社会の将来を想像する

大迫 政浩

想像の仕方

数十年後の将来の循環型社会を一緒に想像してみたいと思います。数十年後といえば、かなり遠い将来なので、なかなか想像力が働かないところがあります。無責任に荒唐無稽なことを想像するわけにもいきませんので、ある程度、前提を置かざるをえません。そこで、過去から現在、未来へのトレンドを踏まえて、こうなるのではないかという予想をいくつかのシナリオとして立てて、それぞれのシナリオごとにどのように対処していけば、望ましい将来の姿を想像できるか、という手順で考えてみました。このような方法をフォアキャスティングのアプローチといいます。

図に、将来シナリオに基づく循環型社会の想像の仕方を概念的に示しました。将来の見通しを二次元の変数(要因)に基づいて考えます。一つは「社会シナリオ変数」で、将来の社会変化に影響を与える人口動態、国際関係、産業構造などの変化要因を表します。もう一つは「対策シナリオ変数」で、循環型社会形成に向けて技術的又は制度的にどのような対策を施すか、その対策メニューを表します。

社会シナリオ変数と対策シナリオ変数の組み合わせで数多くのシナリオを描けることになります。良く設定されるシナリオの立て方として、ライフスタイル重視⇔技術重視、リージョナル化⇔グローバル化の二つの対極軸に、在りそうなシナリオを描くやり方があります。そこで図のように、技術重視・グローバル化シナリオ(シナリオA)と、ライフスタイル重視・リージョナル化シナリオ(シナリオB)の二つの極端なシナリオを試行的に設定して、以後の議論を進めてみます。

図 将来シナリオに基づく循環型社会の想像の仕方(概念図) 図 将来シナリオに基づく循環型社会の想像の仕方(概念図)

社会シナリオ変数の変化による影響

現在のトレンドで行けば、日本の人口は次第に減少し、少子高齢化によって労働人口も少なくなっていきます。廃棄物の発生量も全体として減少するでしょう。一方、古くなった建物や構造物などのインフラは、廃棄の時期を迎えます。

そのうえで、グローバル化社会(シナリオA)になると、製造業は海外に生産拠点を移し、農業も自由化されて、国際競争下で産業は空洞化していくことになります。そのため、製造業から発生する廃棄物や家畜糞尿などの農業系廃棄物もさらに減少することになると思われます。また、人口減少により建物や構造物などの新たな需要は減少し、その結果、セメント産業は衰退し、鉄鋼や非鉄などの素材産業も海外に生産拠点を移すために、廃棄物の発生と処理・リサイクルのバランスがとれない状態になるでしょう。

逆にリージョナル化社会(シナリオB)では、資源安全保障の観点から国内の生産産業(一次産業、二次産業)は一定程度保護、育成され、食料自給率向上のために一次産業も再生すると思われます。そうなると、人口減少に伴う廃棄物の減少も幾分速度は遅くなり、家畜糞尿などの農業系廃棄物は逆に増加する可能性もあります。しかし、いずれにしてもインフラ系の建設系廃棄物の発生は需要に対して過剰であり、アンバランスが解消できない構図は変わりません。

高度情報化社会は両シナリオ共通に訪れます。資源採掘から廃棄物処理までのトレーサビリティ管理が実現し、環境負荷やモノの流れの見える化がなされて廃棄物の管理を一変させるでしょう。一方で、ネット社会において情報が氾濫し、循環型社会づくりにおける社会の合意形成は一層多様性を帯び、難しくなるでしょう。

昨今の原発縮小の流れは、再生可能エネルギーへの構造転換をもたらすでしょう。さらに脱温暖化の流れも含めると、化石資源のエネルギー転換に伴い生成する廃棄物(石炭灰など)は減少していく一方、国内の林産資源がバイオマスエネルギーとして活用され、エネルギー転換時の残渣物は増加していくと考えられます。

対策シナリオ変数の変化による影響

循環型社会形成に向けた対策シナリオ変数について、重要ないくつかの観点を挙げ、将来の影響を考えてみます。

循環型社会づくりのための事業は、企業規模の拡大により、資金調達から建設、運営に至る総合的な事業化が一層進むでしょう。自治体からの資金も投入して、官民パートナーシップ(PPP)の下での包括的事業化が進むと思われます。また、拡大生産者責任(EPR)の考え方の下に、容器包装、家電、自動車などの生産者による回収・処理リサイクルのシステムが形成されましたが、対象範囲は一般廃棄物を中心に大幅に拡大され、産業廃棄物処理とも融合・一体化し、生産者が関与した形での処理事業に拡大することでしょう。先述のPPPの下での包括事業化とも親和性をもった新たな産業形態の形成がなされることでしょう。

その延長上には、グローバル化社会(シナリオA)の下で廃棄物処理・資源循環に関わる企業の国際進出に弾みがつくでしょう。また、国際的な資源循環は一層進むと考えられることから、環境保全上適正な管理が求められます。そのような中で、高度な技術をもつ日本と、地理的に需要側に近く豊富な労働力をもつ国との間で、新たな資源循環の国際分業体制が生まれ、国際的な枠組みの下で融和的な資源安全保障の関係が形成されるでしょう。さらに、資源安全保障と環境保全の観点が加わって、日本の高度な技術を要するリサイクル拠点を海外に移転して、貴重な資源を逆輸入する事業も考えられます。

一方リージョナル化社会(シナリオB)の下でも、一次産業や建設・エンジニアリング企業等との連携、流通業界との連携等により、総合的なバイオマス企業として資源循環に貢献する事業形態も出現することでしょう。あらゆる廃棄物を含むバイオマスの一体化された総合的な処理・リサイクルがPPPの下で包括事業化されることも考えられ、地域内資源循環システムを基盤とした、資源安全保障の観点から国際的にも競争力をもつ事業形成がなされるでしょう。

気候変動への対応は地球社会全体に突きつけられた人類最大の課題です。シナリオA、シナリオBともに、あらゆる天然資源からのエネルギー多消費型生産は、二次資源からのエネルギー節約型生産に転換されていくことでしょう。化石資源自体も再生可能資源に転換が進みます。特に建築物については、木造化の進展により、建築物に二酸化炭素がストックされるとともに、廃棄後も再生可能資源(エネルギー)として利活用されることになります。廃木材のような廃棄物系バイオマスは、コスト的にも調達しやすく最優先で利活用されるでしょう。加えて、シナリオBにおいて木材の需要を国産材に求めれば、様々な課題を克服しつつ国内の林業の再生にもつながり、建築廃木材だけでなく、製材残材や林地残材等のエネルギー利用などにより、炭素吸収源としての森林保全と循環型社会形成が両立する理想的なシステムが形成されるでしょう。

イラスト:大迫先生

その他、シナリオA、B共通の予見として、脱物質化政策としてのレンタル、リース、シェアリングが進み、所有形態の変革が進むと、廃棄物の発生抑制が進み、資源需要も減少することになります。特に耐久製品の分野で進展することになるでしょう。環境負荷に関する外部費用の内部化・見える化は、資源の採掘から生産、消費に至るライフサイクルにおける環境負荷のうち、経済的に外部化されている部分を明らかにし、それを社会合意の下に内部化するものですが、この取組が実現できれば、最終的には消費者負担によりコストは適切に分配され、環境保全上の適正な処理・リサイクル費用の確保にも貢献します。また、廃棄物の発生の少ない製品の選択など、環境に優しい購入・消費につながり、ひいては環境に優しい生産へのインセンティブにもなり、持続可能な生産と消費を可能にする社会システムに近づけることになります。

おわりに

将来への大きな痛手を受けた今だからこそ、新しい社会を「創造」してくためのビジョン、目標が必要です。そのような思いで本稿を書きました。なお、以上の議論は、国立環境研究所で実施した第二期中期計画における中核研究プロジェクト「近未来の資源循環システムと政策・マネジメント手法の設計・評価」における研究アプローチがベースになっています。興味がありましたら、研究報告書1)を参考にしていただければと思います。

参考資料
  1. 国立環境研究所特別研究報告書、循環型社会研究プログラム(終了報告)、平成18~22年度(127p)、http://www.nies.go.jp/kanko/tokubetu/sr97/sr97.pdf
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