循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2010年9月6日号

身の回りの製品に含まれる化学物質

梶原夏子

 「化学物質」という言葉の定義はあいまいでとても難しいのですが、大きくは、もともと自然に存在するものから人工的に合成されたものまで、有機物から無機物までを含む原子で形作られるもの全てを指すと考えることができます。つまり、毎日の料理に欠かせない食塩の主成分である「塩化ナトリウム」も、焼却炉での発生が問題となった「ダイオキシン」も化学物質なのです。その中で、私たちの研究グループが対象としている化学物質は、生き物や環境に何らかの悪い影響を与える物質、あるいは、悪い影響を与えそうな物質です。具体的には、化審法(2009年9月7日号「化審法の改正」参照)やRoHS指令(2009年4月20日号「RoHS指令」参照)など国内外で規制対象となっている物質や、将来的に規制対象に含めるべきか国際的に検討されているような物質について研究をしています。この記事ではこうした物質のことを「化学物質」と呼んでお話したいと思います。

 私たちが空気や食品など様々な媒体を通して化学物質を体内に取り込んでいることは皆さんもご存知だと思います。身の回りにある家具や家電製品、衣類などにも、数々の化学物質が様々な目的で使用されています。しかし、これら「製品」からヒトへの直接的な化学物質曝露の実態についてはあまりよく分かっていないのです(2009年4月20日号「家庭製品中の難燃剤の室内環境の影響」参照)。私たちは一日の大半を家庭や学校、職場などの室内で過ごしますから、ヒトへの化学物質曝露を考える際には、室内環境における製品からの曝露の実態を知る必要があります。しかし、そもそも、各製品にどのような化学物質がどれくらい含まれているのかもよく分かりません。そこで私たちの研究グループは、多様な化学物質のうち臭素系難燃剤(2006年12月4日号「難燃剤」、2006年12月18日号「ハウスダストの研究(ほこりの研究)」参照)に注目し、実際に身の回りで使われている製品に含まれる濃度を測定することにしました。

環環ナビゲーター:りえ&たけ

 まずは、製品中の難燃剤含有量を正確に知るための分析方法を作ります。化学分析には一般的に「抽出→精製→機器分析」というステップがあります。抽出とは、試料から目的の成分を取り出す工程のことです。コーヒー豆からコーヒーをドリップするのも抽出ですね。精製とは、目的成分以外を取り除く工程を指し、数種類の方法を組み合わせて段階的に精製処理を進めます。最後にGC-MSやLC-MSなどの精密分析機器(2010年9月6日号「GC-MSとLC-MS」参照)を用いて、目的物質の量を測ります。ある化学物質の濃度を測る方法を作るには上記の各工程について一つずつ検討し、もっとも良い方法を選択していく必要があります。「製品」を対象に測る場合、例えば、プラスチックにも色々な種類がありますし、電子基板のようにプラスチックと金属が混ざっている場合はどうすればよいか、繊維製品はどうすればよいか、など多くの検討を経て分析方法を組み立てていきます。実際に、難燃剤の添加が予想される製品を集めて化学分析を行ったところ、製品によって含有量は大きく異なりましたが、使用済テレビやパソコンのケーシング(外箱)からは重量ベースで10%以上の臭素系難燃剤の一種であるポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)が、電子基板からは最高で2%程度のPBDEsが検出されるものがありました。防炎カーテンや建築用断熱材にはヘキサブロモシクロドデカン(HBCDs)という難燃剤が使われており、いずれも2〜4%程度の含有が認められました。重量ベースで10%のPBDEsが添加されているということは、例えば、テレビケースの重量が2 kgだとすると、そこには200 gのPBDEsが含まれている、ということになります。どうでしょう、想像以上に大量に添加されていると思いませんか。

 現在、PBDEsは規制が強化されており、他の物質への代替が進んでいます(2010年6月21日号「製品中化学物質の代替」参照)。そのため、最新のテレビやパソコンのケーシングを分析しても高濃度で検出されることはないでしょう。しかしながら、規制により化学物質の使用が終了したとしても、既に使用されている製品が回収されるとは限らないため、PBDEs含有製品の使用は継続します。とくに家電製品や家具などは製品寿命が長いため、家庭などに長期間とどまることになりますので、使用時の製品からヒトへの化学物質曝露の評価は重要です。いずれ製品は廃棄されますが、その際に、焼却や埋立、リサイクルに伴って規制物質が環境に放出される可能性を最小限に抑える必要があります。つまり、ある化学物質の規制が始まり、代替化が進んだとしても、使用製品からの曝露および廃棄物処理という課題は残されてしまうのです。新たな製品を購入する際は、「どんな製品もいずれ必ずゴミになる」ということを常に意識し、潜在的な廃棄物としての視点をもって「製品」を選ぶことが大切だと思います。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. Kajiwara, N. et al,: Photolysis studies of technical decabromodiphenyl ether (DecaBDE) and ethane (DeBDethane) in plastics under natural sunlight. Environmental Science & Technology, 42, pp.4404-4409, 2008.
  2. Kajiwara, N. et al.: Determination of flame-retardant hexabromocyclododecane diastereomers in textiles. Chemosphere, 74, pp.1485-1489, 2009
  3. Kajiwara, N. et al.: Brominated and phosphorus compounds in televisions and a personal computer in the Japanese market in 2008. Organohalogen Compounds, 71, pp.795-799, 2009.
関連研究 中核研究2
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