2009年4月20日号
家庭製品中の難燃剤の室内環境への影響小瀬知洋
難燃剤は火災を発生しにくく、延焼を遅らせることを目的にテレビやパソコンのケーシング(筐体)の樹脂部分、カーテンやじゅうたんなどの屋内で使用される繊維製品、車の内装品、建物の断熱材などに幅広く添加されています。難燃剤は大きく分けて、臭素系、リン系、無機系などに分類されます。ここではこれらの難燃剤のうち、主に樹脂や繊維の難燃化に用いられる臭素系難燃添加剤であるポリ臭素化ジフェニルエーテル類(PBDE)とヘキサブロモシクロドデカン類(HBCD)について取り上げます(図1)。 PBDEはその難燃効果の高さから家電製品や建材、繊維などに幅広く難燃剤として使用されており、特にテレビのケーシングの樹脂部分には重量比で十数%もの難燃剤が使用されている場合もあります。PBDEは焼却処理や太陽光による光分解によって毒性の高い臭素化ダイオキシン類であるポリ臭素化ジベンゾフランを生じることが明らかとなったこと(2008年8月25日号「臭素化ダイオキシン類の発生源としての難燃剤」参照)や、RoHS指令の規制対象となったことなどから、その使用量は減少傾向にあります。HBCDはPBDEの代替物質として需要が増加した難燃添加剤の一つであり、PBDEと同様に各種樹脂や繊維などの難燃化のために幅広く使用されています。 難燃剤はその使用目的上、室内で使用される様々な家庭製品に添加されます。このため製品の使用過程において難燃剤が室内空気中に放出されるほか、いったん揮発して周囲にあったダストに付着する、プラスチックの表面劣化で難燃剤を含むプラスチックとともに粒子としてダストに移行するなどして、ハウスダスト中に放出されることによって、室内環境やひいては我々の健康にも影響を及ぼす可能性があります(2006年12月18日「ハウスダスト研究(ほこりの研究)」参照)。 そこで、実際に一般の家屋と同等のモデルハウスの室内に様々な製品を設置して、どのような製品からどのような難燃剤がどれくらい放出されるのかを明らかにするために実験を行いました。 モデルハウス内の7畳洋間に、図2のように家庭製品を設置して実験を行いました。製品の負荷率(室内にある製品の表面積が部屋の容積当たりどの程度かを示し、室内の製品密度を表す指標。一般的に1〜2 m2/m3程度と言われています。)は家電製品において0.36 m2/m3、繊維製品において0.73 m2/m3で、合計1.0 m2/m3程度に設定しました。家庭製品を設置する前と、家庭製品のうちテレビ・パソコンなどの家電製品を設置した後、家電製品に加えてカーテンなどの繊維製品を追加設置した後の3回、室内空気を採取して、PBDEとHBCDの濃度を測定しました。 製品の設置後に難燃添加剤の室内空気中濃度が上昇したかどうかをみることで、どの製品から何が放出されたのかを明らかにすることができます。 また、設置後に濃度の上昇が見られた場合は、その濃度上昇幅から製品から難燃添加剤がどの程度放出されているかを大まかに試算することができます。 室内に製品を設置する前と家電製品を設置した後のPBDE濃度の比較、及び繊維製品を追加設置した後のHBCD濃度の比較を図3に示しました。 左に示したPBDE濃度の測定結果では、家電製品を設置した後に濃度が上昇しました。この結果から、家電製品からPBDEが放出されていると考えられました。なお、繊維製品の設置時に室内空気中のPBDE濃度は上昇しませんでした。 右に示したHBCD濃度の測定結果では、繊維製品を追加設置した際に濃度が上昇しました。このことから、HBCDは繊維製品から放出されていることが確認されました。なお、家電製品の設置時にHBCD濃度は上昇しませんでした。蛍光X線による臭素分析を行った際には、設置した繊維製品のうちカーテンのみから臭素が検出されました。また、カーテンの直接分析においても試験に使用した全てのカーテンからHBCDが検出されました。このことから、HBCDは主にカーテンから放出されたと考えられました。 実験中、部屋は100 m3/hの速度で換気していたので、製品設置前後の室内空気中の濃度差からPBDEの放出速度は6,600 pg/h程度と考えられました。同様にカーテンからのHBCDの放出速度は10,500 pg/h程度と考えられました。製品の実際の使用時と同等の条件下での個別の放出速度を検討した事例はありません。しかしながら室内空気中において実測された難燃剤濃度は一般家庭における値と比較して低くなりました。この原因は明らかではありませんが、一因として生活活動が無いためダストの発生量が少ないといった実験上の問題点が考えられ、今後こういった点を改善した試験が必要と考えられました。 <もっと専門的に知りたい人は> |
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