けんきゅうの現場から
2017年8月号

専門研究の深みと広がり―コンクリート材料から―

山田 一夫

資源循環・廃棄物とコンクリート

図1 鉄筋コンクリート製容器と処分場の例 図1 鉄筋コンクリート製容器と処分場の例2)
鉄筋コンクリートは,外周仕切,屋根,施設内部の仕切壁,コンクリート容器に使用される。

コンクリートは、骨材という岩石粒子をセメントという結合材(糊)で固めたものです。一体、セメントやコンクリートがどう資源循環・廃棄物と関係するのでしょうか?

  1. セメント製造に膨大な量の廃棄物(2000万m3/2014年!)を原燃料として利用し、産業廃棄物最終処分場を節約(年間2000万m3利用することで9年分延命)(決して出来上がったセメントに混合するわけではない)1)
  2. 焼却灰の処分時にセメントで固めて有害成分の溶出を抑制・防止。
  3. 遮断型処分場などで有害物質・放射性廃棄物を環境から遮断するバリア(図1))2)

このようにセメント・コンクリートは廃棄物処分や処分量の削減に重要ですが、セメント製造により人為的CO2排出量の6%を排出(世界平均)3) しており、同時に環境負荷の原因ともなっているのです。廃棄物分野においても、セメント・コンクリートのことを理解することはとても大切です。

研究と応用

現代において使用されるセメント・コンクリートの主流である「ポルトランドセメント・コンクリート」は発明されてからまだ200年たっていないですが(少数ながら100年以上使い続けているものもあります)、近い化学組成のコンクリートならば、火山灰と石灰石を焼いた石灰を混合したローマンセメントは2000年の歴史を持っています(といってもほとんど遺跡です)。コンクリートは橋やダムやビルを建設するのに使いますが、それを構成するセメント水和物の結晶構造と空隙構造の詳細(コンクリートの特性に深く関与)は実はよく分かっていません。

土木構造物や建築物をいったい何年使うように建設すべきなのかということにも必ずしも合意が得られていませんし、コンクリートが何年使用に耐えるのかもよく分かりません。しかし、廃棄物処分は人類が存在する限り継続的に機能することが求められますし、放射性廃棄物のある種のものは保管すべき年数が数万年にも及びます。

数万年を予測するとなると、これまでの経験で培われてきたコンクリートの製造方法、建設分野での経験を超えた現象を想定する必要があるかもしれません。そこで、種々の最先端技術を使って分析したり、計算したりするようになります。他分野で発達してきた、ありとあらゆる分析技術が使用されます。吸脱着測定、X線結晶構造解析、中性子線回折、核磁気共鳴、各種分光分析、放射光、電子顕微鏡、X線組成分析などなどです。微細な原子レベルの視点からでは、図2に示すように原子を並べてコンクリートの強度発現の主体であるケイ酸カルシウム水和物を再構築し、水やイオンとの相互作用を分子動力学計算により推定する試みまであります4)。誤解されては困りますが、ハイテクで単にデータを出すだけでは意味がなく、どれも深い専門知識と結びつけて、得られたデータを多面的に解釈し、長期的なコンクリートの挙動を考察していくことが重要です。

図2 主要セメント水和物(ケイ酸カルシウム水和物)の微細構造モデル

図2 主要セメント水和物(ケイ酸カルシウム水和物)の微細構造モデル
H. Manzano准教授(バスク大学)との共同研究
左図:黒い線がCaO層、その両側の赤い△がケイ酸塩四面体、水色の◯がCa、薄い水色の◯が水分子。
右図:黄色の◯で示されるCaが二重層を形成し、その両側に青色で示すケイ酸塩四面体が連なり、この基本構造を水和したCaイオンが繋ぎ止めている。(a)は平板上のケイ酸カルシウム水和物が積層している様子で、(b)は層間が開き水分子が充填している様子。

ひととの関わり

上記の種々の個別技術を一人の研究者がすべて実施するのは極めて困難であり、世界中の先端研究者との交流が必須です。国立環境研究所では、原子力発電所事故由来の放射性Csの処理・処分の研究を行っていますが、セメント・コンクリート分野でも多くの研究者の協力を得ています。その一つが、図2に示した計算科学であり、また、現場に近い観点からはコンクリート容器の製造指針の作成支援4)などがあります。

多くのコンクリート工事は、水、セメント、砂、砂利他を練り混ぜ、型枠に流し込み、硬化後に型枠を取り外します。コンクリートの練混ぜなどある部分を品質の確保しやすい工場で行うこともありますが、コンクリートの施工など品質がひとの力に依存する部分も多いのです。ということは、出来上がったコンクリートの品質は工事の良し悪しに依存する部分が多く、人の能力、あるいはやる気に依存するのです。

イラスト材料研究をいくらか学者が実施しても、現実に良い建設物を作るにはひとに依存する要素が必要なのです。工業技術の発展は、ひとに依存する部分を排除する方向に進むものですが、良いものを作ろうとする匠の精神を尊重する活動もあります5)

建設現場はまさにひと次第ですが、基礎研究もひととの繋がりなしには進まない時代です。そして、近い将来、基礎研究を現実の建設工事、処理・処分に役立て、基礎と実工事を融合させるべく、幅広い活動を実施しているのが我々の研究の現場です。

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