ソーシャルビジネスとは、社会的な課題を解決するために、ビジネスの手法を活用して取組む事業、または事業の主体を指します。社会的課題には、環境保全や高齢化問題、子育て・教育、地域活性化などが挙げられます。また、ビジネスの手法とは、ある商品やサービスを提供してその対価を受け取ること、及び、そのための仕組みや工夫を意味します。従来、社会的課題の解決を担ってきた行政や、ボランティア・慈善型NPOに加え、新たな「公」の担い手として、ソーシャルビジネスは期待されています。
ソーシャルビジネスには、①社会性、②事業性、③革新性の3つの要件があるとされています1)。①社会性とは、社会的課題に取組むことを事業活動の使命とすること、②事業性とはビジネス手法を用いて、継続的に財源を確保して、事業活動を進めること、③革新性とは、新しい社会的商品やサービス、それを提供する仕組みを開発し、活動が社会に広がることで、新しい社会的価値を生み出すことです。
循環型社会形成の分野においても、こうした要件を備えたソーシャルビジネスの取組みが行われています。
企業から排出される使用済みパソコンやプリンターの中には、まだまだ使えるのに定期的な更新や機能が古くなったからという理由で処分されるものも少なくありません。NPO法人イーパーツ2)や株式会社オージス総研3)では、こうした使用済みパソコンやプリンターを企業から提供してもらい、障がい者施設で再生・クリーニングした上で、市民活動団体や被災者などに寄贈する事業を行っています。この事業では、パソコンのリユースという資源の有効利用に加え、障がい者の就労支援、地域活動支援や被災者支援などの様々な社会的価値が生み出されています。また、企業には、使用済みパソコンの提供に加えて、事業に必要な経費も寄付金として提供してもらっています。企業にとっては、事業が社会的価値を有していることが、CSR(企業の社会的責任)の一環として寄付金を提供して、この事業を支援したいという動機に繋がっています。
福島県いわき市のNPO法人ザ・ピープル4)は、古着を県内約30カ所に設置したリサイクルボックスで回収し、リユース・リサイクルする事業を行っています。まだ着られる古着やリメイクしたエコバック、布ぞうり等は店舗で販売、もう着られない古着は障がい者施設で加工して工業用ウエスとして販売、ウール50%以上の古着は自動車の内装材として再利用、一部の古着は海外に支援物資として提供するなど、古着を徹底して選別することで、売れるものは販売し、そうでないものも可能な限り資源として活用しています。この徹底した選別が、この事業をビジネスとして成立させるノウハウの1つとなっています。また、古着を販売する店舗はPCC(ピープル・コミュニティ・センター)と名付けられ、お客さんや販売するボランティアが一緒に団らんするスペースや古着をリメイクする教室が併設されていて、近所の住民が集い、情報交換できるコミュニティの拠点にもなっています。この事業が生み出している社会的価値としては、資源の有効利用、障がい者の就労支援、地域住民の繋がりの強化、途上国支援などが挙げられます。
紹介した2つの事例では、中古パソコンや古着の回収、再生・加工、寄贈・販売の各段階で、色々な主体が関わる仕組みを作ることで、社会的価値が創造されていました。具体的には、再生・加工の段階で障がい者施設に参加してもらうことで「障がい者支援」という社会的価値が生まれ、寄贈・販売の段階で市民団体に提供することで「地域活動支援」という価値が生まれていました。また、紹介した事例ではありませんが、回収の段階で小学校から不用品を提供してもらえば「環境教育」という社会的価値を生み出せるかもしれません。リユースやリサイクルといった循環型社会に取組むソーシャルビジネスは、モノを媒介として異なる主体を繋げる仕組みを作ることで、新たな社会的価値を生み出すことができると言えます。また、こうして生み出された社会的価値に賛同・共感したひとや主体が、新たな、或いは継続的な支援者となることで、事業がさらに拡大していくという好循環も期待されます。
私たち研究者の役割の1つは、こうした新規性や独自性のある取組みを詳しく理解して、取組みの成功要因や、取組みが上手くいっていない場合には失敗要因を明らかにし、さらに取組みを普及・拡大させたり、より良い取組みにするための提言をすることにあります。私たちは、今後もソーシャルビジネスに注目し、循環型社会の形成に貢献するような広がりをもった活動として定着するために、研究を進めていきたいと考えています。