マーシャル諸島共和国は日本に対して、廃棄物適正管理、リサイクルの促進を目的とした技術支援を要請しました。筆者はJICAのボランティアとして同国マジュロ環礁の廃棄物管理公社に派遣され、約2年間現地スタッフと一緒にごみ処理事業に取り組んできました。
ここではこの小さな島で、どのようなごみが排出され、どのような処理が行われているのか、ご紹介したいと思います。
マーシャル諸島共和国は、日本の南東ミクロネシア地域に位置し、29の環礁と1225の島々が散在する海洋性熱帯気候の低地環礁国です。水爆実験で有名なビキニ環礁もその1つです。環礁は東経160度から175度、北緯4度から19度に広がっており排他的経済水域は約200万km2に及ぶ一方、国土は茨城県霞ヶ浦に相当する181km2にすぎません。主要産業は農業(やしの実)と漁業で、製造業はココナツ油脂製造と水産加工業であり、日用品、食料品など生活必需品の多くを輸入に依存しています。
首都マジュロ環礁は本国南東部に位置し、面積は9.8km2、人口は27,700人(2009年)と全国の約45%を占めています。
環礁内(一部を除く)から排出される生活系ごみは埋立ごみ、グリーンごみ(ヤシ、バナナなどの落葉、剪定ごみ)、粗大ごみの3区分に分別され、週1回、定期収集されています。また、ホテル、商店等の契約事業者からは不定期に収集されるほか、処分場へ直接搬入されるごみをあわせて1日あたり約20tのごみが排出、処理処分されています。収集地区内人口から推定される1人1日あたりのごみ排出量は約0.90kgとなります。排出割合は表1に示すとおりで、生活系ごみが35%、事業系ごみが65%となっています。また、大洋州の島しょ国と比べると比較的多い都市となっています。
マジュロ環礁廃棄物管理公社はマジュロ環礁内で発生するごみ処理を担っています。事業内容は生活系、事業系ごみの収集、グリーンごみのコンポスト化、埋立ごみの処分や埋立ごみからのアルミ缶の回収リサイクル(国外輸出)のほか、環境保護局と協力してごみの減量やリサイクルの普及、広報活動にも積極的に取り組んでいます。
ごみの減量、リサイクルを促進するためには、どのようなものがごみとして排出されているかを知ることが非常に重要な情報となります。そこで生活系収集ごみ(排出量の27%)を調査しましたので、その特徴を述べたいと思います。なお、調査は2010年4月から8月に、5収集地区ごとに実施し、単純平均で重量割合を算出したものです。また、分類項目は公社でのリサイクルの取り組み状況等を考慮して表に示す20項目に分類をしました。
最も割合の高いのは草木類で28.8%となっています。そのうち堆肥化可能物22.9%となっており、分別収集されたグリーンごみを合わせると更に高い割合となります。これは熱帯性気候の国の特徴の一つで、やしの木やパンの木などが常に緑を蓄え、落葉を繰り返すことで1年を通して多量にごみとして排出されます。次いで紙おむつ、プラスチック、紙となっています。プラスチックの内訳ではレジ袋、プラスチック容器・包装の割合が高くなっています。中でもプラスチック容器・包装は、ごみの処分を海洋埋立(浅瀬をコンクリートブロックで仕切って埋立)に依存する同国にとって厄介な問題となっています。一方、発泡スチロールカップ・皿も重量割合は低いのですが大変かさばるため同様に問題となっています。その減量対策として「レジ袋、発泡スチロールカップ・皿、飲料用プラスチック製容器規制に関する法律」の制定が検討されています。紙では主に段ボールである板紙が大半を占めています。これは先に述べましたように、食料や生活用品を輸入に頼っていることから物流に使用するためのものです。同国内では週刊のタブロイド2紙が発行されていますが、広告・チラシ類は一切なく、また、ダイレクトメール類もありませんので家庭内に持ち込まれる紙類は極めて限定的となっていることにもよります。一方、金属ではスチール缶の割合が高くなっています。アルミ缶の多くはビール、炭酸飲料缶ですが、スチール缶は食料品の缶詰が多くを占めています。アルミ缶やアルミ建材、エアコンや冷蔵庫のラジエタ等は輸送費(コンテナ運賃)を考慮しても販売益が得られるため積極的に回収されていますが、その他の金属については売却価格の変動が大きく、積極的な回収にはつながっていません。
狭小の島しょ国においてリサイクルを進めるための条件は非常に厳しく容易ではありません。また、粗大ごみ、廃家電、廃自動車など適正処分はさらに大きな課題となっています。
最後に日本のごみ組成調査結果との比較図を示します。ごみの中身を比較しながら、南の小島のライフスタイルを想像してみて下さい。
図1ごみ組成比較