1995年阪神・淡路大震災、2004年新潟県中越地震、2007年新潟県中越沖地震、2011年東日本大震災などの地震・津波災害、2004年新潟・福島豪雨災害、2004年福井豪雨災害、2006年鹿児島県北部豪雨災害などの集中豪雨や2004年台風23号豊岡水害、2012年台風12号災害などの風水害、また、2012年つくば市における竜巻災害など、近年我が国においては自然災害が頻発しています。また、南海トラフ巨大地震、あるいは首都直下地震の切迫性が指摘され、その発生が危惧されています。
このような自然災害発生時には、建築物の倒壊や被災住宅からの家財等より、一度に膨大な量の災害廃棄物が発生することとなります。阪神・淡路大震災では約2,000万トン、東日本大震災では約1,600万トンもの災害廃棄物が発生しています。災害廃棄物の処理は、悪臭等の公衆衛生上の問題や仮置き場における火災等、その過程でさまざまな問題が生じます。また、上下水道システム等が被災することで、災害前と同レベルでの処理が困難となり、給水が困難となる、自然環境中に十分に処理することができていない処理水を排出せざるを得ないなどの問題が生じることとなります。つまり、災害時においても、人々が健康を維持し、環境衛生面での安全・安心を確保することが重要であり、そのための対策をいかに構築するのかが大きな課題となります。
阪神・淡路大震災以降、災害を未然に防止するという「防災」とともに、災害が起こったときの被害をできる限り軽減するという「減災」という考え方が重要となってきています。図-1に示す災害マネジメントサイクルのように、災害が発生したとき、災害後の「初動対応」や「復旧・復興」で完了するのではなく、「被害抑止」や「被害軽減」という次の災害への備えにつなげていくことで、継続的に社会の災害対応力を向上させていきます。
これまでにも、防災分野においては、このような考え方のもとで、さまざまな研究がなされてきています。しかしながら、災害廃棄物や環境衛生という災害時の環境問題については、これまでのところ、ひとつのトピックとして扱われてきており、必ずしも災害後の人々の環境衛生面での安心・安全の確保のための知見の体系化には十分ではないといえます。
災害初動時においては、人命が最優先されます。さらに、その後の応急復旧、復旧・復興という長期的な視点や災害マネジメントサイクルという視点からは、災害時の環境衛生を確保することが大変重要であります。外力としての自然災害が、社会の持つ環境面での防災力・減災力を越えた場合に、災害時の環境リスクが顕在化することとなります。つまり、環境防災力や減災力を、災害発生前の日常の生活の中で向上させていくことが必要となります。
普段やっていないことは災害時にはできません。たとえば、災害廃棄物を考えると、その計画や体制を災害後に構築するためには、まず、災害廃棄物の量を推定することが必要となります。そして、この災害廃棄物を迅速かつ適正に処理するためには、どのような処理技術が必要なのか、どのような制度や人・もの・情報のマネジメントが必要なのか、どんな計画が必要なのが、どのように情報提供すればよいか、を災害前に考えておくことが必要です。また、そのための人材育成、施設整備、計画策定など環境防災力・減災力の向上への取り組みも重要です。以上のような視点で、現在は、環境分野と災害分野を融合した形での災害環境に関する知見の体系化を試みるとともに、「災害環境学」「災害環境マネジメント学」という新たな学問分野を構築することに挑戦しています。