今回の東日本大震災は、私達の想像を遥かに超えた未曾有のものとなりました。地震の規模(M9.0)は国内観測史上最大で各地で激しい揺れを引き起こし、発生した津波の高さは最大10m弱、津波が陸地を遡上した高さは40.5mに達し、死者行方不明者合わせて2万人規模の多大な人的被害をもたらしました。さらに、福島の原発事故で放出された放射性物質の影響は、未だ収束していません。これら地震・津波・原発事故という複合的な要因は、被災地の復旧・復興をきわめて困難なものにしています。
大震災による被害が特に大きい岩手・宮城・福島の3県における復旧・復興に重くのしかかっている大きな問題の一つが、地震や津波で発生した「災害廃棄物」の処理です。国の推計によると、発生量は3県合計で約2,500万トンで、この数値は、家庭などから1年間に発生する一般廃棄物の日本全体量(約4,600万トン)の半年分以上にも相当します。その多くは津波により海水を被り、また、海底から打ち上げられた土砂や泥(津波堆積物)も数千万トンあるといわれています。さらに、原発事故の影響のため、地域によっては災害廃棄物等が放射性物質により汚染されている状態にあります。このように、今回発生した災害廃棄物は、東日本大震災の特徴を鏡に映したように、膨大・広範・複雑な様相を呈しています。
今回の災害廃棄物の問題は、被災自治体や国が直面している最重要かつ喫緊の行政政策課題です。私たちは、これまでの研究で積み上げてきた知見や技術を最大限活用し、災害廃棄物対策の解決に貢献するために、次のような取り組みを進めています。
全国の大学や公的研究機関の研究者、行政担当者、企業技術者などの知を結集すべく、これら関係者からなる「震災対応ネットワーク」を震災発生1週間後に立ち上げました。これまでに本ネットワークは、水産廃棄物、塩分を含んだ廃棄物、アスベスト、津波堆積物、野焼きなど、多様な技術情報を行政に提供してきました。
震災発生3週間後からは、廃棄物資源循環学会と連携し、また、国や自治体からの協力要請を受け、被災地各地に職員を順次派遣し、災害廃棄物等の発生や処理の実態把握、行政担当者等への技術的助言などを行っています。この現地調査を通じて、現場で直面する課題を身をもって感じるとともに、各種調査の実施などのその後の活動に活かしています。
災害廃棄物の円滑な処理を支援するため、国や学術機関などとも連携し、課題解決に向けた各種調査を実施中です。例えば、海水を被った廃木材は塩分を多く含み、焼却時にダイオキシン類などの有害物質発生が懸念されています。私たちは、津波被災地で廃木材を採取し、当センターにある焼却炉を模擬した実験プラントを用いて、木材の種類や塩分濃度、燃焼温度などの影響を明らかにするための燃焼実験を実施しています。そのほか、津波堆積物の適正な処理・活用、災害廃棄物仮置場での火災発生防止、放射性物質に汚染された災害廃棄物の適正処理などの課題を解決するための調査活動を実施中です。
現在、3県の被災地では、災害廃棄物の処理に向けた作業が懸命に行われています。しかし、多くの市町村は、仮置場の不足、分別されずミンチ(混合)状態で積み重ねた災害廃棄物の火災の懸念、仮置場や市街地での害虫の発生、放射性物質に汚染された廃棄物など、多種多様な課題を抱えています。
これらの課題を乗り越え、被災地の災害廃棄物の安全・迅速かつ経済的な処理をより円滑に進めていくためには、行政(市町村・県・国)、関係団体・業界・企業、研究機関が相互に協力・連携しつつ、それぞれの役割をしっかり果たしていくことが重要になります。
私たちはこれからも、現場調査を継続して現場や行政のニーズ・課題を的確に掴み、行政への働きかけ・提案も行いつつ、技術情報の提供や調査研究成果の発信などを通じて、災害廃棄物の課題解決に貢献したいと思います。