循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 循環・廃棄物のけんきゅう!
2011年1月24日号

不用品回収と金属スクラップ(雑品)輸出に関する3つの問題

寺園 淳

写真1  街で見かける不用品回収業者 「ご不用になった家電、パソコン、・・・はありませんか。動かなくてもかまいません。」のように、軽トラックで宣伝したり、空き地を利用したりして、不用品を回収する業者を、皆様もご近所でよく見かけられるかと思います(2008年1月7日号「小売業者の違反事例にみる家電リサイクルの課題」参照)。景気の影響や環境意識の高まりもあって、国内でリユースビジネスが拡大していることも影響していますが、中古品やスクラップとして海外へ輸出されているものも多くあるとみられています(2008年6月9日号「中古家電(テレビ)の海外リユースと環境問題」参照)。

 一般には、これら不用品回収業者は古物商の許可を持っていて、無料または有価で買い取りを行っているので、盗品を規制する古物営業法としては問題ありません。しかし昨年(2010年)には、廃棄物収集運搬業の許可がないのに廃棄物として処理手数料を徴収したり、そのようにして集めた使用済み家電(廃棄物とみなされるもの)を環境大臣の確認がないまま輸出しようとしたため、廃棄物処理法違反で逮捕された業者のいたことがニュースとなりました。身近な話題であるだけに、このような不用品回収に関するルールについては、より明確に整備・周知される必要があります。

 このように明確な法律違反でなくても、回収業者に引き取られた後、何らかの問題を引き起こす場合があります。ここでは、中古品としての価値がない不用品が、「雑品」「ミックスメタル」とも呼ばれる金属スクラップに混ぜられて輸出されるときの問題を3つ挙げながら、私たちが研究している内容を少しご紹介します。

 第1に、鉛などの有害物質の問題です。使用済みのブラウン管テレビ(で使えないもの)のように、バーゼル法の規制対象リストに入っているものであれば、輸出する際には、相手国の事前承認など厳しい輸出手続きが必要になります。一方、それ以外の使用済み家電の多くについては、一つ一つリストには挙げられておらず、規制対象か否かの判断には有害物質の含有量と溶出量の分析を行うことになっています。しかし、規制基準を超過するような基板などが金属スクラップ全体に不均一に存在するために、判断の方法は容易ではありません。また、有害金属以外にも、エアコンにフロンが残存していたり、オイルなどの残留が疑われるような農業機械やオートバイも多数見つかることがあります。これらは有害金属と同様に、適切に事前除去される必要があります。

 第2に、資源回収の問題があります。いろいろな家電の中に含まれる基板が輸出されているということは、銅や金などの大切な資源が海外に輸出されていることを意味します。テレビ、エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・乾燥機は家電4品目と言われて家電リサイクル法の対象となっており、排出者がリサイクル料金を負担して国内でリサイクルする枠組みができています。海外、特に中国で需要の高いのはエアコンで、私たちがいくつかの金属スクラップを調査した時も、その割合は4品目の中で最も高くなっていました。ビデオデッキ、炊飯器、掃除機、扇風機など様々な家電製品が、輸出予定の金属スクラップから見つかることが多くあります。

 第3に、火災の問題を指摘せねばなりません。金属スクラップの、積載船舶または港湾内施設における火災が、海上保安庁調べで近年は年に5回程度発生しています。このほか、港湾以外で金属スクラップを集積・保管している業者などでも年に数回程度火災が発生しています。火災原因については、鉛バッテリーの破砕物が見つかる場合を除いて概して特定が困難となっていますが、火災の発生機構としては発火と延焼の二段階が考えられています。発火については、鉛バッテリーやリチウム電池なども衝撃で発火しやすいこと、船舶積載時には金属どうしの衝撃などでも発火することのほかに、保管時の蓄熱発火も含めて、多くの原因がありえることがわかっています。延焼については、金属スクラップにしばしば多く含まれるプラスチックや油分などの雑多な有機物が燃えていました。

写真2  火災を発生した金属スクラップ(2009年9月、大阪府内港湾にて) つまり、金属スクラップといっても、「金属」だから燃えないのではなく、取扱い方法や有機物によって火災を発生する可能性が十分あることがわかっています。これに対して、火災を発生した輸出業者の多くは、火災防止対策が十分ではないことが多く、火災防止のインセンティブが働いていないといえました。さらに、実際に火災が発生した場合には、消火に最長8日間もの長時間を要したり、泡消火剤を使用した場合は数百万円以上の多額の費用が消火を行った自治体の負担になっているのです。


 以上のような有害物質管理・資源回収・火災防止といった3つの観点から、私たちは金属スクラップの輸出実態を調査し、適正管理方策について研究を行っています。すべての金属スクラップ輸出に問題があるわけではありませんが、私たちが使用済み家電などの不用品を安易に回収業者に引き渡した場合、もしかしたら有害廃棄物として輸出されたり、その中で火災の発生につながる可能性も否定できません。最終消費者から引き渡された後も基本的な流れが確認でき、その中で有害物質は適切に管理される一方、貴重な資源は有効利用され、安全性も確保される、このような仕組みづくりを目指しています。

<もっと専門的に知りたい人は>
  1. 寺園淳ほか:有害物質管理と資源回収の観点からの金属スクラップ(雑品)発生・輸出の実態解明、廃棄物資源循環学会論文誌、Vol.22、No.2、2011(印刷中)
  2. 寺園淳ほか:平成21年度循環型社会形成推進科学研究費補助金 研究報告書「有害物質管理・災害防止・資源回収の観点からの金属スクラップの発生・輸出と適正管理方策」、2010
関連研究 中核研究4
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