循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 社会のうごき
2008年1月7日号

小売業者の違反事例にみる家電リサイクルの課題

寺園 淳

 最近は、小売業者による家電製品の不適正な取扱い(家電リサイクル法違反)に関する報道が増えています。最も新しいのは、昨年(2007年)12月5日に報道された某大手家電量販店の事案で、 消費者から引き取った使用済家電のうち約7万7千台がメーカーに引き渡されていなかったというものです。これは、2002年6月に環境省から4社の量販店における約7万台の不適正な取扱いが発表されて以降、1件あたりとしては、最大の違反台数になっています。

 2001年に施行された家電リサイクル法では、メーカーに家電4品目(ブラウン管テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機、エアコン)をリサイクル(再商品化)する義務が課され、小売業者は買い替えなどをする消費者から使用済家電を回収する役割を担うことになりました。 リサイクルと収集・運搬にかかる料金は排出時に消費者が負担し、小売業者はその料金を受け取って家電リサイクル券を貼り、指定引取場所まで運ぶことになっています。

 こうした使用済家電を引き取ってもらった消費者からすれば、各メーカーが定めた3〜5千円程度のリサイクル料金と小売店が定めた収集・運搬料金をせっかく支払ったにもかかわらず、メーカーのリサイクルプラントに届かなかったのであれば、「それはないよ」という不満が出るのももっともです。 最近では、全国的に無料回収業者(写真)が使用済家電を集めて回っているために、消費者が「お金を払っても適切にリサイクルされないのならば、無料で引き渡したい」と考えたくなるのも無理はありません。また、こうした報道がしばしばあることは、現在の回収システムに問題があることの表れですし、発表されたもの以外にも不適正な取扱いがあると考えるのは自然なことでしょう。

 では、なぜ使用済家電が小売業者からメーカーに引き渡されなかったのでしょうか。環境省の発表などによれば、委託された収集・運搬業者が横流ししてしまった場合や、保管時に盗難された場合などが多いとされています。また、小売業者がリユース(再使用)するために引き取ったものと混同された可能性が指摘されたものもあります。 いずれの場合も、消費者から受け取ったリサイクル料金や使用済家電を適切に管理せず、メーカーに引き渡していなかった小売業者の責任は大きいと考えられます。これらの小売業者は家電リサイクル法の引渡義務違反にあたり、勧告や立入検査を受けたり、環境省などに報告を求められたりすることとなっています。

 こうした不適正な取扱いが後を絶たない背景としては、中古家電品や金属資源の海外需要が高く、価格が高騰していることが挙げられます。つまり、横流し・盗難などされた使用済家電が、家電リサイクル法のルートから外れて「見えないフロー」 に入り、そのいくらかは海外へ輸出されているというものです(2007年2月5日号「コクサイシゲンジュンカン?」を参照)。

 このほか、リユースとの関係がやや紛らわしいことも指摘できます。リユースはリサイクルより優先されるべきですから、リサイクル料金を受け取らずに無料もしくは有価で引き取った小売業者自らか、別に引き渡した中古品販売業者がリユースすることは認められています。ただし、買い替えにあたり使用済家電をリユース目的で小売業者が引き取ろうとしても、値段の査定が容易でなかったり、確実に販売できるとは限らないという問題があります。

 さらに、家電リサイクル券システム(いわゆるマニフェストのひとつ)の問題もあります。家電リサイクル券に記載された情報を用いれば、消費者は使用済家電のゆくえをインターネットで検索したり、また、小売店にゆくえを問い合わせたりできることになっていますが、実際に確認をする人はまれでしょう。このため、不適正な取扱いが発覚するのは立入検査が行われた場合にほぼ限られます。 消費者が確認できる権利を保障しながら、使用済家電がなくならないように誰かが全体を管理できるシステムが求められていると考えます。

 リユース基準の策定などについては、現在、環境省の中央環境審議会等で検討が行われている家電リサイクル法の制度見直しで対応が進むようです。小売業者に対する管理強化は必要ですが、それによって使用済家電が小売業者以外の「見えないフロー」に入り、適切なリサイクル・処理がなされているか分からなくなるということがないように、厳格なモニタリングと適切なルートへの誘導策が必要でしょう。

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