循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - 近況
2007年2月19日号

「見えないフロー」とリサイクル・海外輸出

寺園 淳

 2006年は廃棄物の分野で「見えないフロー(流れ)」という言葉が少し流行りました。これは、施行されてから5年が経過した家電リサイクル法の法改正を議論するにあたり、環境省や経済産業省の関係会合で使われた言葉です。 つまり、法でリサイクルの対象となっている使用済みの家電製品4品目(ブラウン管テレビ、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機、エアコン)は、法で定めたリサイクル施設には使用済みとなった製品数の半数程度しか集まっておらず、 消費者の手元を離れた後の行方がわからない「見えないフロー」が多く存在するというものです。家電リサイクル法の改正にあたっては、このフローも含めた使用済み製品の取引の実態をもう少し明らかにしてから議論をすべきという意見が多く、法改正は1年延期されることになりました。

 このような「見えないフロー」は決して家電製品だけにあるわけでなく、リサイクルや廃棄にかかるフローはわからないことが多いのが実情です。最近は使用済みの製品が海外でリユース・リサイクルされることが多くなり、日本国内だけでリサイクルの制度を論じられなくなってきました。 特に、家電製品やパソコン・携帯電話のような電気電子製品の廃棄物はe-wasteと呼ばれ、海外での需要が高まる一方で、それをリサイクルする際に環境上の配慮が不適切であれば環境汚染を引き起こすことがあるために、国際的なリサイクルの観点からも注目すべき対象になっているといえます。

写真 リユース目的で輸出されたと思われるものの、香港の港で放置されている日本製のテレビ(2005年10月、筆者撮影)

 「見えないフロー」を明らかにするために必要なのは、電気・電子製品の廃棄量(台数)と、リサイクル・廃棄の方法別の取扱量(台数)です。

 廃棄量(台数)は、電気・電子製品のような耐久消費財の場合は、製品の使用年数などを考慮せねばなりません。携帯電話やパソコンなどの使用年数は徐々に短くなる傾向がありますし、テレビも2011年の地上アナログ放送終了にあわせて大量に発生することが予想されます。

 また、リサイクル・廃棄の方法としては、①家電リサイクル法で認められたリサイクル施設に引き取られるもののほかに、②海外へリユースなどを目的として輸出されるもの、③国内の処理業者で処理・リサイクルされるもの、などがあります。このほか、不法投棄もありますが、量的にはさほど多くないといわれています。

 従って、見えないフローのほとんどは②と③ではないかと考えられています。②の場合は、製品(または部品)がリユースされる目的以外に、非鉄金属スクラップなどの材料がリサイクルされる目的で海外輸出される場合があるようです。③の場合も、国内で取引された後に、非鉄金属スクラップなどが海外輸出される場合があるようです。 量的な把握はまだ難しいものの、見えないフローの多くは、製品・部品・材料として様々な形で海外輸出されていると考えられます。

 私たちは、このように国際的に流通する循環資源が多いなかで、見えないフローをできるだけ明らかにしたり、適正な管理方法を提示したりすることを目的として、研究プロジェクト「国際資源循環を支える適正管理ネットワークと技術システムの構築」を行っています。家電を含むe-wasteや廃プラスチックを主な検討対象としています。 また、アジア諸国でのリサイクルなどに伴う環境影響の把握や改善も目指しています。

 さて、廃棄物を循環利用させるための、リデュース(発生抑制)、リユース(再使用)、リサイクル(再生利用)といういわゆる3Rの中で、リユースはリサイクルよりも優先されるといわれています。しかし、海外でのリユースと国内でのリサイクルのどちらが優先されるべきでしょうか。その答は、簡単ではありません。

 日本で役目を終えた家電製品が、海外で必要な人に適正にリユースしてもらえるならば、確かに、資源の有効利用に役立っているともいえます。しかし、輸出された後で、使用されない製品やリサイクル後の残渣が処分場ではない場所に投棄されたり、野焼きなど健康や環境に悪い手段でリサイクルされることもあります。 写真は、リユース目的で日本から輸出されたと思われるものの、香港の港で放置されている日本製のテレビの山です。このほか、中国ではリサイクルされたe-wasteの残渣が生活ごみと混ざって河川敷に投棄され、環境汚染を生じている場合もあります。

 有害廃棄物の輸出を規制する国際・国内的な制度(バーゼル条約やバーゼル法)はあるものの、国際的なリユース・リサイクル全般に対する国際条約や国内法は整備されていません。ですから、市場原理に従えば、売り手と買い手の合意さえあれば簡単に海外輸出されるのが現状です。問題が生じても責任の所在や程度は問いにくいのです。 しかし、健康や環境に悪いリサイクルや廃棄につながるおそれのある海外輸出は、できるだけ防止するためのルールを設ける必要があります。一方、国内だけでリユース・リサイクルしようとしても、製品は国際的に流通している状況では、現実的な解は得られません。

 見えないフローは少ない方がよいですが、完全になくすこともできないと思います。見えないフローがあるから対策が取れないのでなく、できるだけ不適正な方向に流れにくくする制度をつくる必要があると考えています。そのため、リサイクル全体のフローの把握と、政策のあり方の研究を私たちは進めているのです。

関連研究 中核研究4
HOME
表紙
近況
社会のうごき
循環・廃棄物のけんきゅう
ごみ研究の歴史
循環・廃棄物のまめ知識
当ててみよう!
その他
印刷のコツ
バックナンバー一覧
総集編
(独)国立環境研究所 循環型社会・廃棄物研究センター
HOME環環 表紙バックナンバー
Copyright(C) National Institute for Environmental Studies. All Rights Reserved.
バックナンバー