循環型社会・廃棄物研究センター オンラインマガジン『環環kannkann』 - その他
2009年8月24日号

ごみの管路輸送システムとつくば市での廃止事例

寺園 淳

 ごみの「管路(パイプライン)輸送システム」は、「真空輸送システム」「空気輸送システム」などともいわれ、国内では1973年に初めてホテルにて導入され、その後、約20年間に約20ヶ所のプラントが稼働したとされています。1970年代から国庫補助のモデル事業として管路輸送システムの導入が行われ、大阪南港ポートタウン(1977)、芦屋浜シーサイドタウン(1979)、多摩ニュータウン(1983〜2005廃止)、横浜みなとみらい21(1991)などで事業が進められてきました。また、国庫補助を受けない単独事業としては、りんくうタウン(1996〜2002廃止)、幕張新都心住宅地区(1995)、東京臨海副都心(1996)などがあります。このように、新興の住宅・商業地区を中心に導入が進められました。

写真1:住居系の投入口

 つくば市(当時桜村)でも1983年6月からごみの管路輸送システムが開始されていましたが、2009年3月末を最後に廃止されました。つくば市では、センター地区72haにある住宅・商業ビルなどが対象となっていました。このシステムでは、可燃ごみと難不燃ごみ(つくば市がごみ管路用につくった、「難燃ごみ」と「不燃ごみ」をあわせた独自の分類)の2分別で投入口からごみが投入されると(写真1:住居系の投入口)、地下にある2種類のホッパーで一時保管されます。これが直径500mm、直埋設部延長約5.4kmのパイプラインを通じて、時間帯に分けて毎秒30mで「分別」吸引され、センター地区中央部の管路輸送センターに集められ、専用のコンテナに積載されていました。そして、つくば市中心部の管路輸送センターで集積した後は、北部に約12km離れたクリーンセンターまで、処理のためにコンテナ車で運搬していたのです。

 管路輸送システムはつくば市などの場合、1) 排出者はいつでもごみが出せる(利便性)、2)屋内外でごみ貯留が不要のため悪臭防止や美観が保たれる(衛生性)、3)収集作業の省力化やコンピュータ制御による危険防止も図れる(安全性)、などが大きな特徴とされてきました。高度成長期以降の「新時代のごみ収集」を印象付けるものであったともいえるでしょう。実際に、つくば市の管路収集システムも廃止までの間、大事故・火災・悪臭による苦情などはなかったそうです。

 しかし、この管路輸送システムも開始から20年以上経過し、十分に機能しているといえなくなっていました。例えば、1日の収集量は、当初計画量の41tに対して、その1/10以下の4.1t(2006年度)、3.8t(2008年度)にとどまっていました。収集料金も、ごみ収集車による収集の場合は8.8円/kgであるのに対して、管路収集では59.3円/kg(ともに2006年度実績)であり、管路収集に多額の費用がかかっていました。さらに、施設自体の修繕費や維持管理費が年間8,000万円程度かかるのに対して、有料分の事業所からの収入は約1,500万円と赤字の状態が続いてきました。最近では、管路輸送対象区域の事業者でも管路輸送を導入しない「管路離れ」が進んでいたそうです。

写真2:穴あき部分を応急処置した輸送管

 また、輸送管(パイプ)も老朽化し、管路輸送センターの施設や機械類もモデル事業の終了年度(1990年)から耐用年数(15年)を経過し、建て替えや交換の時期を迎えていました。特に、輸送管には穴あきなどが発生し、最近では補修が増加していたようです(写真2:穴あき部分を応急処置した輸送管)。管路輸送センターについては、改築した場合の費用は約30億円と見積もられたそうで、利用状況や財政状況からこれが認められないのは明白であったといえます(ちなみに、新しいつくば市役所の建設費が約70億円です)。

 さらに、管路輸送では可燃ごみと難不燃ごみとの2種類で分別収集していましたが、1990年度に分別収集となった資源ごみ(びん・缶など)や、粗大ごみの収集については、対象区域でも収集車の利用となるため、収集コストの二重負担が生じていました。現在は、減量化(Reduce)・再使用(Reuse)・再生利用(Recycle)を行う3Rや、資源ごみをできるだけ分別収集するといった考え方が浸透してきていますが、これらが想定されていなかった2分別の管路輸送システムは時代に適合しにくくなったともいえるでしょう。

 これらの状況から、つくば市では2004年度の外部評価を加えた行政評価において廃止の方針が打ち出され、2009年3月末に利用が廃止されました

たけ&Dr.グッチー

 平成20年に国がとりまとめた環境・循環型社会白書のコラムにも、管路輸送システムは「(分別収集やリサイクルなどの現在の取組の)反面教師」として紹介されてしまいました。しかし、つくば市の事例のみならず、この事業に巨額の初期投資が行われた際の国や地元での計画はどのように立てられたか、実際の費用対効果はどうであったのかなど、今後の政策マネジメントの観点から、さらに詳細な評価をした方が良いのではないかと考えられます。また、施設の補修・改築が難しく、国の補助金で建築・購入したものを当初の目的外に利用し直すこと(特に不動産の場合)は厳しく制限されているという、国の補助金制度のあり方も見直す必要がありそうです。しばらくの間は、つくばの貴重な中心市街地にある管路輸送センターが塩漬けになってしまうそうですが、これもあまりに「もったいない」話ではないかと思います。

 本稿は、つくば市廃棄物対策課の方へのヒアリングと資料類を参考に執筆しました。心より感謝申し上げます。

<参考資料>
  1. 廃棄物学会編:廃棄物ハンドブック、オーム社、1997
  2. 田中勝、寄本勝美他編:ごみハンドブック、丸善、2008
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