活動レポート
2023年12月号

イギリス・ケンブリッジ大学滞在記

渡 卓磨

なぜケンブリッジ大学に?

私は2022年9月から2023年8月までの1年間、ケンブリッジ大学工学部に客員研究員として滞在し、素材産業の脱炭素化に関する共同研究を実施しました。長期派遣研修先としてケンブリッジ大学を選んだきっかけは「Sustainable Materials: With Both Eyes Open」という本との出会いにあります。日本の博士課程に入学し、研究テーマを模索している時期にこの本に出会い、その内容に感銘を受けました。緻密な解析、明快な文章、美しく設計されたグラフ、そして提案された対策のアイデアは、当時の私にとって非常に新鮮で魅力的でした。それ以来、著者であるAllwood教授やCullen教授の論文を読み込み、いつか彼らと一緒に研究をしたいと思っていたのです。幸運にも研究所の長期派遣研修制度に採択され、その機会を得ることができました。1年間を過ごしたケンブリッジの街は自然が多く、春夏秋冬で異なる美しさを感じることができました(図1)。

図1 1年間を過ごしたケンブリッジの春夏秋冬 図1 1年間を過ごしたケンブリッジの春夏秋冬

肌で感じたケンブリッジと日本の違い

滞在中は、大御所のAllwood教授、中堅のCullen教授、若手のSerrenho教授にお願いし、3つの研究室に所属させてもらいもらいました。研究室運営や学生指導の様子を可能な限り多く学びたかったからです。3人の教授はそれぞれ10〜15人程度のグループを統率しており、博士課程の学生と博士研究員(ポスドク)がそれぞれ概ね半分の割合で所属していました。学部生や修士課程の学生は研究室には所属しておらず、研究室メンバーの全員が大学あるいは他機関から給料をもらって研究をしている「プロの研究者」であるという点は日本の大学とは大きく異なります。また、解析の結果を単調に報告するのではなく、結果は誰に対して何を示唆するのか、現在の潮流に対して何を付け加えるのか、を多くの時間を割いて議論し、それを論文上で具体的に表現しようとする姿勢にも大きな違いを感じました。

また、それ以外にもケンブリッジ大学の研究室には一般的な日本の大学の研究室とは異なるいくつかの特徴があると感じました。あくまで私の主観的な感覚ですが、以下にその例を示します(図2)。

  1. 学部・修士課程から直接博士課程に進学するのではなく、一度インダストリー(一般企業等)で働いてから明確な目的意識を持って博士課程に進学する人が多い
  2. 博士課程あるいはポスドクになるタイミングでほぼ全員が所属大学や研究室を変更する
  3. 博士課程修了後は大学や公的研究機関に残らずに、インダストリーに就職する人の割合が高い
  4. 大学や公的研究機関に残る場合、博士課程修了後の3〜5年程度はポスドクとして研究に完全集中する人が多い
  5. 活発な若手研究者が世界中から多数集まってくる

特に私の研究分野では、日本の博士課程修了直後に助教や講師として大学に就職し、講義や雑務等に追われる中で、研究に時間を割くことができないという状況がよく見受けられます。対照的に、ケンブリッジで出会った若手研究者の多くは、博士課程修了後の数年間は研究に大半の時間を割き、質の高い論文を定期的に出版するための地力を養っているように感じました。また、②と③に関連して、ケンブリッジには様々な研究能力を有する活発な研究者が世界中から多数集まっています。これは、駆け出しの研究者として得られる知見や刺激に大きな違いを生み出していることを肌で感じました。

図2 日本とケンブリッジ大学におけるアカデミアとしてのキャリアパスイメージ 図2 日本とケンブリッジ大学におけるアカデミアとしてのキャリアパスイメージ

今後に向けて

私が所属する国立環境研究所は大学ではないため、所属研究者が講義を担当することがなく、若手研究者の間は研究に多くの時間を割くことができます。少なくともこの点において、当研究所は私のような駆け出しの研究者にとって非常に恵まれた環境であると感じます。ただし、現状では活発な若手研究者が世界中から多数集まっているとは言い難く、似たような研究指導を受けてきた日本人のみで議論をするケースが多く見受けられます。それでは国際化、複雑化し、多様な人々の価値観も深く関連する環境問題の解決に向けた良い研究を行うのは難しいというのが私の考えです。今後、この長期派遣研修の経験を活かして、世界中の若手研究者が当研究所で研究をしたいと思えるような研究の質、研究環境の整備を目指して努力していくつもりです!

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